■フェルマーの最終定理と楕円曲線(その14)
【5】重さ2の保型形式
q=exp(2πiz)とおいて,関数
F(z)=qΠ(1-q^4n)^2(1-q^8n)^2=q-2q^5-3q^9+6q^13+2q^17-q^25-10q^29+・・・
=c(n)q^n,q=exp(2πiz)
を考えます.c(n)はF(z)のフーリエ係数です.
n 1 5 9 13 17 25 29
c(n) 1 −2 −3 6 2 −1 −10
F(z)は,モジュラー
ad-bc=1,c=0(mod 32,すなわち32の倍数)
なる任意の整数a,b,c,dに対して
F(az+b/cz+d)=(cz+d)^2F(z)
を満たします.このとき,F(z)は重さ2の保型形式をもつといいます.とくに,
a=1,b=1,c=0,d=1
のとき,F(z+1)=F(z)となって,実軸方向に周期1の関数になっていることがわかります.
素数だけに注目して,Npとc(p)をひとつの表にすれば
p 2 3 5 7 11 13 17 19 23
Np 2 3 7 7 11 7 15 19 23
c(p) 0 0 −2 0 0 6 2 0 0
すなわち,
Np+c(p)=p
という関係があることがわかります.Npは楕円曲線からの数列,c(p)は保型形式からの数列というまったく違った由来をもっているのに深いところで関連があるというわけです.このような対応がすべての楕円曲線について存在するというのが谷山予想(谷山・志村・ヴェイユ予想)です.
こみいった話になるのですが,F(z)のフーリエ係数c(n)を使って,ディリクレ級数
φ(s)=Σc(n)/n^s
を定義します.ディリクレ級数はリーマンのゼータ関数
ζ(s)=Σ1/n^s
を一般化したものです.そして,楕円曲線Eに対してよい還元になる素数を使って,代数的ゼータ
L(s;E)=Π(1-c(p)p^(-s)+p^(1-2s))^(-1)
を定義します.一方,解析的ゼータを
L(s;F)=Σc(n)/n^s=Σc(n)q^n
で定義します.このとき,すべての素数に対して「解析的ゼータ=代数的ゼータ」が成り立つというのが谷山予想(谷山・志村・ヴェイユ予想)です.
a^p+b^p=c^pを満たすような半安定な楕円曲線:
y^2=x(x+a^p)(x−b^p)
が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,ワイルズは「半安定」なという制限付きの谷山予想を証明することによってフェルマーの最終定理が解決しました.すなわち,楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示したというわけです.その後,谷山予想は1999年に完全に証明され,定理となりました.
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