■フェルマーの最終定理と楕円曲線(その12)

  y^2=x^3+ax+b   (4a^3+27b^2≠0)

を楕円曲線と定義することにする.4a^3+27b^2≠0は重根をもたないための条件である.y^2=x^3やy^2=x^2(x+1)は重根をもつから楕円曲線ではないが,

  y^2=x^3−x=x(x+1)(x−1)

は重根にはならないから楕円曲線である.

 楕円曲線にはアーベル群の構造がはいる.そして,y^2=x^3−xの有理点は点(0,0)(±1,0)のみである.実は,命題「x^4+y^4=z^4をみたす自然数は存在しない」は命題「y^2=x^3−xの有理数解は(x,y)=(0,0),(±1,0)のみである」に帰着できる.x^4=z^4−y^4の両辺にz^2/y^6をかければ

  (x^2z/y^3)^2=(z^2/y^2)^3−(z^2/y^2)

したがって,x^4+y^4=z^4をみたす自然数は存在しないのである.

 今回のコラムでは,mod pの世界すなわち有限体

  Fp={0,1,,・・・,p−2,p−1}

を考え,楕円曲線

  y^2=x^3−x=x(x+1)(x−1)

に限定して,

  y^2=x^3−x  (mod p)

を満たす整数点(x,y)を探し出すことにする.有限体の位数は有限であるが,素数pは無数にあるからFpは無数にあることになる.

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【1】有限体上の因数分解

  x^2+3x+2=(x+1)(x+2)

は整数係数のおなじみの因数分解の問題であるが,足して3,掛けて2となる2数を見つければよい.1と2がこれを満たすわけであるから,答えは右辺のようになる.

 それでは,以下の例はどうであろうか?

  x^2+4=(x+1)(x+4)

  x^2+2x+2=(x+3)(x+4)

一見分解できなさそうに見える左辺が,右辺のように1次式の積として表されているのだから明らかな誤りと映るに違いない.ところがこれが正しいのである.

 そんな馬鹿なと思われるかもしれないが,実はこの因数分解のトリックは「有限体」にある.整数や有理数,実数や複素数の元は無限個あり,演算規則が定義されている.整数は環をなし,有理数,実数,複素数,4元数,p進数は体をなす.このことから,体の定義を思い出してほしいのだが,0以外の元が常に乗法に関する逆元をもつ数体系を「体」という.そして,有限個の元と体の構造をもつ数体系が「有限体」である.

 なお,代数学の教えるところによれば,n元の体(加減乗除の演算が定義された集合)が存在するための必要十分条件は,nが素数(のベキ乗)になっていることで,位数2,3,4=2^2,5の体は存在するが,位数6=2×3の体は存在しない.そして,位数7,8=2^3,9=3^2の体は存在して,位数10=2×5のものは存在しない.

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