■膨張宇宙論(その14)

【4】小惑星セレスの発見

 今日,小惑星は火星と木星のあいだの空間に幾百となく散在していることが知られています.天文学史上,最初に発見された小惑星はセレスで,セレスは第1号であり,かつ,最大の小惑星です.セレスは1801年1月1日の夜,イタリアの天文学者ピアッツィによって発見されました.

 ピアッツィはボーデの予測した位置にある小惑星の運行を追い続けましたが,2月初旬,この天体は太陽に接近しそのまぶしい光に消されてしまったために観測できなくなってしまいました.

 ピアッツィが観測した41日間だけのデータ(9°の弧)だけを使って楕円軌道を確定することは,当時の天文学者たちの計算能力の限界を超えていました.なぜなら,それまでの軌道決定法は豊かな資料に基づくものであり,セレスの場合,少ないデータからケプラー運動を推論することが要請されたからです.

 そこで,24才の若きガウスはたった3回の完全な観測からその軌道を計算し,太陽の近くで姿を消してしまったセレスがその年の終わり頃再び姿を現す位置を計算しました.1801年12月31日,セレスはガウスの予測した位置に再び姿を現しました.

 その位置は粗い円軌道近似で推定したものよりも7°以上も東にずれていましたから,結局,ガウスの予測は非常に正確であることがわかり,若いガウスに最初の大きな名声を与えることになりました.この成果は予知と観測とニュートン力学による軌道計算の劇的な合流点を表す天文学史上の事件であったと考えられるのですが,いまでもガウスの最も知られた業績の一つになっています.

 セレス以降,ドイツでは小惑星の発見ラッシュとなり,1802年に2番目の小惑星パラス,1804年に3番目の小惑星ジュノー,1807年に4番目の小惑星ベスタが発見されています.

 1794年,ガウスは18才のときすでに最小2乗法を考案していたと記録されていますが,ガウスによって天体の運動・軌道を決定するための新しい方法として創始され,ある時刻の位置を予測して再発見の手がかりを与えた方法が最小2乗法なのです.当時の望遠鏡の解像度を考えると,位置の予測なしに再発見は難しかったと思われますが,小惑星セレスの再発見によって最小2乗法は有名になり,実用に供されるようになりました.そして,1821年と1823年にガウスは最小2乗法を発表し,1820年代までに今日広く使われている最小2乗法の基本的な大筋が完成しています.

 また,ガウスはこの過程で実験データの期待値からのバラツキが一定の法則に従うことに注目し,その分布を理論的に計算しました.この分布が正規分布(ガウス分布)で,ガウスの結果を厳密に証明したものが中心極限定理です.正規分布はあらゆる種類のデータ解析において中心的な役割を果たしています.測定誤差の基礎となる誤差論も19世紀の始めガウスによって始められ,これが端緒となって数理統計学が進歩しました.換言すれば,数理統計学は正規分布を中心として展開され,ガウス以来200年,誤差,変動,撹乱,ばらつき,偏りのあるデータを適切に処理し情報を抽出する方法を開発してきたのです.

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