■膨張宇宙論(その12)

 19世紀のドイツの物理学者ヘルムホルツは,色彩の研究とともに音色の研究で有名である.ヘルムホルツは大変研究範囲の広い学者で,生理学,物理学,音響学,天文学などにわたって多彩な研究をした.エネルギー保存の法則(位置エネルギーと運動エネルギーの和は一定:1847年),永久機関は不可能であることを証明している.

 

 また,眼底鏡を発明し,網膜には赤・緑・青の3種の色感覚をつかさどる神経があり,それらの興奮の強さが人に色彩を感じさせるのだという3原色説を確立した(ヤング・ヘルムホルツ学説).

 

 1857年,渦の運動を研究したのがきっかけとなり音響学に熱中するようになった.ピアノやバイオリンが同じ高さの音であっても,音色(波形)がまったく異なる理由を考え,楽音には基音の振動数の整数倍の振動数をもつ倍音があって,倍音の数や強さによって音色が違ってくることを明らかにした.

 

 音の大きさと高さが同じでも楽器が違えばその違いを識別できるのは,音色が違うから,音色の相違は波形による相違によるものと考えたのである.さらに進んで,内耳の蝸牛が共鳴器であり,その振動によって音の識別ができることも解明している.

 

 マックスウェルの最大の功績はさまざまな電気的・磁気的現象を表すことのできる簡単な方程式を見いだし,電気と磁気がそれぞれ単独では存在できないことを明らかにしたことである.磁気や光に興味を持ち,光の3原色を青・緑・赤としこれらを適当に混合して任意の色が得られるとした.この原理は今日,カラーテレビ,カラー印刷等で応用されている.

 

 現代の音響学および聴覚生理学の基礎を築いたもうひとり,19世紀の物理学者レイリーを挙げなければ不公平であろう.レイリーもヘルムホルツ同様,多彩な研究経歴の持ち主で,1904年,アルゴンの発見でノーベル物理学賞を受けたが,音響工学や光学の業績もみられる.今世紀の初め,レイリーは波動方程式ではなく,電磁気学のマックスウェル方程式を基にして,焦線近傍での解の挙動を調べているのだが,ニュートン,エアリー,ストークス,レイリーをはじめ,虹に関わった多くの科学者はケンブリッジ出身とのことである.

 

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【4】光と音と

 

 ヘルムホルツもレイリーも,光の研究者であると同時に音の研究者であったが,最後に音と光の相違として2点を簡単に述べておこう.

 

 1つ目は色彩には3原色RGBがあるのに対して,音色にはそのような基本単位がないということである.これが色彩感覚と音色感覚との本質的な相違である.2つ目は周波数帯域(ダイナミックレンジ)の広さである.可聴範囲は20Hzから20KHzで約1000倍,一方,可視範囲は400nmから800nmで約2倍であるから,圧倒的に音の周波数範囲が広いのである.

 

 ところで,耳の性能は人によってさまざまだが,眼の性能にほとんど個体差はないように思われる.特定の人にだけ見えて他の人に見えない色は存在しないのだろうか? また,絶対音感をもつ人はわずか1Hzの周波数の違いでも聞き分けられるという.目で見る色は波長分布と一義的には関係していないので,色の目測は主観的になるのを免れないと思われるのだが,はたして,絶対色彩感覚というものはあるのだろうか? 

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