■膨張宇宙論(その6)

 シャボン玉の魅力を語るとしたら,

  (1)美しい虹色の輝き,

  (2)それが空中に浮かんで揺れ動く姿は数学的曲面の実現であること,

  (3)そして一瞬のうちに消え去ってしまうこと

につきるだろう.(1)について,述べてみたい.

 

===================================

 

【1】石けん膜の観察

 

 伝わるところによると,相当の年輩に達したニュートンが窓辺でシャボン玉を吹いているのを通行人が見て,かの偉大なるニュートンが呆けてしまったという風評がロンドン市中に広まったということである.ニュートンにしてみれば,それは子供のように遊んでいたのではなく,シャボン玉の呈する色を観察していたのかもしれないのだが,・・・

 

 垂直に張られた石けん膜の反射光を眺めていると,膜に起こる変化がよく見られる.このとき,黒い紙を後方におくと一層見やすくなる.初めは無色であるが,やがて,膜の上の方から,青,黄,赤の干渉縞が次々に現れ,白い膜(虹色を示さない銀白色の膜)を経て,そこから水が放出されると,やがて黒い膜が現れ,全体が黒膜になると突然膜は破れてしまう.

 

 石けん膜でも,まず最初にできるのは光の干渉色も見られないほどの厚い膜である.光の干渉も起こらないほど薄くなってから,黒い膜ができる.普通,シャボン玉は全体が黒い膜になる前に壊れてしまう.

 

 シャボン玉の色は,水たまりの油膜と同様,薄膜による干渉色であるが,シャボン玉の色が薄膜による光の干渉として生ずるという知識の源泉は,イギリスのヤング,フランスのフレネルに負うものである.高校の光学で教わったことをおさらいしてみよう.

 

 膜の屈折率をn,厚さをd,波長をλとすると,光路差Δは

  Δ=2ndcosθ

さらに,反射点でλ/2だけ位相の変化が加わることを考慮しなければならないので,2ndcosθ+λ/2が波長の整数倍のとき

  2ndcosθ+λ/2=mλ

強め合って明るくなるし,半波長ずれる

  2ndcosθ+λ/2=(m+1/2)λ

と山と谷が互いに打ち消し合って暗くなる.

 

 薄膜に入射した光の反射光の強さは,波長と厚さと入射角できまる.したがって,白色光をあてたとき反射してくる光の強さはある波長分布を示す.これらの色は,それぞれ一定の厚さに対応しているはずであるが,しかし,色となると眼で見る色は3原色の組合せで決まるのであって,波長分布と一義的に関係していないので厄介である.

 

 立花太郎「シャボン玉−その黒い膜の秘密−」中公新書p38に色と厚さの対応がまとめられているが,1500nm以上の厚さでは干渉は見にくい.薄くなるにつれて,スペクトルのように変わっていき,何度か青黄赤をくり返す.そして膜はもはや色を示さず,ただの白色になる.さらにこの白い膜から水が放出されてやがて黒い膜に変わるのである.

 

===================================