■ロンパリ(その6)
ガウスが山に登って三角測量を行った話を紹介しましょう.有名な数学者であるガウスがなぜそんなことをしたのでしょうか?
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ユークリッド自身を含め,人々はギリシャ時代からユークリッド幾何の第5公理,すなわち,「直線lと直線外の点Pがあるとき,点Pを通り直線lと交わらない直線はただ一つしかない」をそれ以外の公理を用いて証明しようとしました.この公理は複雑で定理のように見えたため,古来,多くの学者がこれを定理として証明しようと試みたのですが,大変困難でその試みはついに成功しませんでした.
ところが,19世紀にいたって,この公理を別の公理に置き換えて幾何学が成り立つことが証明されました.すなわち非ユークリッド幾何学の誕生です.「平行線は無数に引ける」を公理として作られた新しい幾何学がガウス,ボヤイ,ロバチェフスキーによる双曲幾何学であり,「平行線は一本も引けない」を公理として作られたのがリーマンの楕円幾何学です.
当時はいずれも常識では納得できない内容の異端幾何学とみなされましたが,ともあれ,平行線公理を取り替えて幾何学を構築すると,ユークリッド幾何学とは違ったことが起こります.たとえば,双曲平面では三角形の内角の和はπより小さいが成立します.三角形の頂点の角度をα,β,γとおくと,ユークリッド面,リーマン面,ロバチェフスキー面では,それぞれ,
α+β+γ=π,>π,<π
になるのです.
ユークリッド幾何学(放物線幾何学),ボヤイ・ロバチェフスキー幾何学(双曲線幾何学),リーマン幾何学(楕円幾何学),この3種類の幾何学は大きく見るとそれぞれ異なっていますが,局所的に見るとほとんど変わりません.現在われわれが住んでいる宇宙もユークリッド的に見えますが,もっと大きく見ると非ユークリッド的であってもよいわけです.
ひょっとしたら,三角形の内角の和はπより小さいかも・・・.ガウスがハノーバー公国にある3つの山,ホーエル・ハーゲン,ブロッケン,インゼルスベルクの3つの山頂からなる巨大な三角形の測量に基づいて,この疑問に答えようとしていたことは有名な逸話です.確かめられたπとの差は測定誤差に基づく近似の精度より小さく,何の結論にも至らなかったのですが,・・・
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