■ガウス曲率とジェルマン曲率(その16)

【1】世界はどんな形をしているか

 われわれ地球人は,地表の上に貼り付いて暮らしています.とはいっても,1〜2mの身長がありますから地平線や水平線をみることができるし,その結果「地球は丸い」ということを想像することができます.20世紀になって,宇宙ロケットから地球を眺めることによって,地球が丸いことを直接確かめられるようになりましたから,今では地球が丸いということに疑いをもつ人はいません.

 しかし,ここでわれわれが厚さ0で球面に束縛され,ほんのわずかでも球面を外側から眺めることができないという前提をおいてみましょう.外の世界からの観測データはわれわれには理解することができるけれども,曲面世界の住人には認識することすらできなくなります.また,曲面では,円の周長と直径の比は円の大きさを変えるごとに異なりますから,曲面人にはわれわれにとっての円周率πや三角形の内角の和は180°(=π)であるなどという概念は理解できないことになります.

 それでは,曲面人は,自分の住んでいる世界が円板やドーナツ面ではなく,球面であることをどうやって認識すればよいのでしょうか? 曲面人は,自分の住んでいる世界を外から見ることはできないので,内的な情報だけで幾何学を構成する必要があります.もちろん,曲面人は星をみて自分の位置を知るようなこともできないものとします.

 平面曲線C上の点Pにおける曲率とは,点PでCに接する円で,最もよくCを近似するものの半径の逆数をいいます.たとえば,放物線:y=ax^2の原点における曲率は2aです.このように二次元空間の曲線の曲率はスカラーの値です.三次元の曲線には,曲率の他に捻れ率という概念がでてきます.三次元の曲面の曲率は「テンソル」となりますが,曲面の曲がり方を測る尺度として,ガウス曲率・平均曲率というような概念もでてきます.

 曲面の各点で曲がり方が最もきつい方向と緩やかな方向がありますが,ガウス曲率は曲率の最大値と最小値の積で定義され,一方,平均曲率とは2方向の曲率の相加平均で定義されます.

 曲面の性質を調べるとき,曲面の内的情報だけで記述できるものと,外の世界からの観測データを本質的に必要とするものとがあります.ガウスは,ガウス曲率が曲面の内部の情報だけで決定でき,外部情報に依存しないことを発見しました.そのとき,ガウスは相当ブッタマゲタらしく,この定理を「驚異の定理」と呼んでいます.

 われわれは地球が平らでないことを星を観測するなど外的な情報を用いて認識していますが,ガウス曲率のような手がかりを使えば,曲面人にとっても外部情報なしに,地球が平らでないことを認識できることになるというわけです.

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