■時代を超えて(その2)
Mathematical Intelligencer誌の読者が選んだ美しい数学公式の一番目と二番目には「オイラー」がランクされている.
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【1】オイラーの公式
e^x=Σx^n/n!において,xの代わりにixとおくと
e^ix=Σ(ix)^n/n!
=Σ(−1)^nx^2n/(2n)!+iΣ(−1)^nx^2n+1/(2n+1)!
これから,
eix=cosx+i・sinx
を得ることができます.
偉大な数学者オイラーは,このようにして指数関数と三角関数を結びつける美しい関係式:
eix=cosx+i・sinx
を見つけました.これにより指数関数と三角関数は複素関数の一部をなしていることが理解されます.一見無関係に見えた指数関数と三角関数のあいだには,実はこのように深い関係が秘められていたのです.
eの複素数乗とはこれいかにと驚かされますが,さらにx=πを代入することにより,数学で最も基本的な数とされるe,i,π,0,1がひとつの式の中に美しく現れている眼のくらむようなオイラーの関係式:
e^iπ+1=0
が得られたのです.スターが一堂に会したこれ以上の豪華な顔合わせは望むべくもありません.
さらに,eは最も簡単な線形微分方程式y=y’(=y”=・・・)の解,πは最も簡単な2階の線形微分方程式y=−y”の解に現れることがわかりますが,それ以上の高階の微分方程式に対して新しい定数を導入する必要がなかったということも驚くべきことです.
この有名な公式は数学者,科学者のみならず,神秘主義者,哲学者にも訴えかけるものをもっています.e,i,π,0,1の間の目を見張るような関係式を学んで数学を志すことにしたという話はよく聞かれるところですが,こんな不思議な関係を誰が予想したでしょうか.
数学を学んだことのある人は誰しもはじめてオイラーの公式に接したときの印象を忘れえないことと思います.このオイラーからの贈り物は人間精神の力量を試す試金石でもありますから,まさに人類の至宝であるといってよいでしょう.
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【2】オイラーの多面体定理
多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,pf=2e,qv=2eが成り立ちます.さらに,v+f=e+2(オイラーの多面体定理)が成り立ちますから辺の数eは
1/e=1/p+1/q−1/2
v=4p/(2p+2q−pq),
e=2pq/(2p+2q−pq),
f=4q/(2p+2q−pq)
となります.
オイラーは晩年の17年間はまったくの盲目でしたが,それにもかかわらず非常に多くの定理,公式を発見していて,量(v−e+f)はオイラー数と呼ばれます.また,多面体の示性数gは,g=1−(f−e+v)/2で定義されます.
凹型正多面体まで含めると,正多面体は全部で9種類あり,プラトンの立体と呼ばれる凸型5種類の他の4種類は,星形正多面体(ケプラーがみつけた星形小十二面体,大十二面体と約200年後にポアンソがつけ加えた星形大二十面体,大二十面体の4種類)です.星形正多面体は4種類しかないことはコーシーが示しています.
オイラーの多面体定理より,凸多面体に対してはg=0となります.ところが,4種類の星形正多面体のうち,2種類はg=0ですが,残りの2種類はg=4になります.g=4はトポロジカルにいえば穴が4つあるドーナツと同一ですから,g=0のみを星形正多面体と呼ぶべきだとの主張もあります.
なお,同じ大きさの正4面体2個による相貫体<ケプラーの8角星>はダビデの星の3次元版ですが,星形正多面体には加えません.さらに,一様多面体(準正多面体の星形化)は75種類,ザルガラー多面体(すべての面が正多角形である凸多面体)は正多面体,準正多面体を除くと92種類存在します.
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