■クラスレート水和物の世界(その7)

【1】空間分割と14面体

 空間分割の話にはいる前に,平面分割の幾何学的性質を調べてみよう.レンガのブロック積みを考える.3つのレンガが1点で出会うように平面を敷き詰めると,すべてのレンガは周りの6つのレンガに接することがわかる.お城の石垣でもタマネギの細胞でもこのような原則が成り立っていて,このことから平面充填図形の基本形は6角形であるといえる.6角形の1組の対辺を退化させると4角形になるが,それは6角形から2次的に派生したものと考えることができるだろう.

 次に,空間分割のブロックモデルを考える.1段目を敷き詰めたあと,2段目も1段目と同じように敷き詰めるが,1段目のレンガのすべての頂点を2段目のレンガで覆うようにずらして積み重ねると,1段目のレンガの上には4つのレンガが載ることになる.3段目も同様に行うと同じ段に6,上の段に4,下の段にも4で合計14のレンガに接することになる.このことからレンガは元々14面体であって,それが普通のレンガの形に圧縮されたものと考えることができる.

 実際の観察結果では面の数は一義的には決まらず,統計的にしか扱えないのであるが,面の数fはほぼ14をピークとする分布を示すことが認められている.たとえば,植物細胞についての観察結果では全体の74%が12〜16面であり,56%が13〜15面(平均13.96面)という値が得られている.また,金属ガラスの構造で最も多い面の数はf=14(〜35%),ついでf=15(〜25%)とf=13(〜20%)が続く.

 面の数は14面であることはわかったが,面の形はどうなるのだろうか? 以下,本稿ではv,e,fをそれぞれ頂点,辺,面の数とする.空間充填多面体の基本形は14面体であるとはいってもf=14という条件を満たす多面体には膨大な種類がある.しかし,幸いなことにここで考えるべき空間充填多面体はフェドロフの平行多面体に限定される.

 平行多面体とは辺が平行(したがって平行四辺形面,平行六辺形面に限られる),面が平行,そして平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体である.平行多面体には立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかない.これら5種類の図形(フェドロフの平行多面体)は3次元格子の幾何学的分類であって,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる.

 このうち14面多面体は切頂8面体だけであるが,切頂八面体には6組の平行な辺があり,6次元立方体と相同と考えることができる.切頂8面体(f=14,d=6)の辺を点に縮めることによって,長菱形12面体(f=12,d=5)→菱形12面体(f=12,d=4),6角柱(f=8,d=4)→立方体(f=6,d=3)ができる.すなわち,6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものとなっていて,空間充填図形の基本形は切頂8面体と考えることができる所以である.

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