■折り紙と作図不可能問題(その26)

 次に,

 (問)互いに平行な2つの円盤に石けん膜を張ったとき,その形は?

を考えてみることにしましょう.

 

 互いに平行な2つの円形の枠に石けん膜を張ったとき,膜の両側の気圧は等しい状態にあるのですが,平行な円形の枠を円盤に代えれば中に空気が閉じこめられるので,膜の両側に気圧差があり,解は極小曲面とはなりません.この場合は,中の空気が閉じこめられているため,その容積が一定という条件のもとでの面積の変分問題に対応しています.

 シャボン玉は中の空気が閉じこめられていますから,極小曲面ではありません.実は,体積固定の表面積の変分問題は,平均曲率一定曲面に対応しています.曲面の各点で曲がり方が最もきつい方向と緩やかな方向がありますが,平均曲率とは2方向の曲率の相加平均で定義されます.

 

 すなわち,平均曲率が一定(≠0)の曲面は,体積一定のまま表面積を最小にすることによって得られるのですが,等周問題の解である球面(シャボン玉)はその自明な例です.(一方,平均曲率が恒等的に0である曲面は極小曲面と呼ばれ,これがプラトー問題の数学的な定式化でした.)

 

 詳細は省略しますが,この問題の解はアンデュロイドと呼ばれるカテノイドとは別の平均曲率一定曲面になります.この曲面は楕円を直線上を転がしたときに,ひとつの焦点が描く波状の軌跡を直線のまわりに回転させたものになっています.

 

 前述したように,回転面で極小曲面は懸垂面(カテノイド)に限られたのですが,回転面で平均曲率一定曲面は球面とは限りません.このような曲面はドローネー曲面と呼ばれていますが,1841年,ドローネーは,平均曲率一定の回転面をすべて決定し,それが平面・円柱面・球面・懸垂面・アンデュロイド・ノドイドの6種に分類されることを示しました.回転面に限ると平均曲率一定曲面の数は意外に少ないのですが,これらはプラトーの回転面とも命名されています.

 

 また,これらは円錐の切断面である2次曲線(円・楕円・線分・放物線・双曲線)を,サイクロイドのように基線上を転がしたときに,焦点の描く軌跡を基線を軸として回転させることによってできる回転面であることも証明されています.母線が円のとき直円柱面,楕円のときアンデュロイド,線分のとき球面,放物線のとき懸垂面,双曲線のときノドイドが得られます.

 

 なお,ホップの予想「球面がただひとつの閉じた平均曲率一定曲面である」は正しいと思われていたのですが,1984年,ヴェンテによって,球面とは異なる平均曲率一定曲面の反例が発見されたのを契機に,平均曲率一定曲面の研究は大きな進展をみせることとなりました.

 

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