■4次元図形の投影図(その11)

 ユークリッドは正多面体(プラトン立体)が5つしか存在しないことを証明した.シュレーフリは4次元空間に凸の正多胞体は6つしかないことを証明した.今回のコラムではこれらのことをシュレーフリ記号を用いて補足説明したい.

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【1】ユークリッドの証明

 正多面体の各面を正p角形,各頂点にq面が会するとすると,頂点の周囲は4直角未満ですから,不等式

  2q(1−2/p)<4,すなわち,

  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)

  (p−2)(q−2)<4

が正多角形となる必要条件です.

 このような整数の組は(p,q)=(3,3),(3,4),(3,5),(4,3),(5,3)の5通りで,それぞれ,正4面体,正8面体,正20面体,正6面体,正12面体に対応します.すなわち,正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類あって5種類しかないことはプラトンの時代にはすでに見つけられていて,それらがプラトンの自然哲学で重要な役割を演ずるところから,正多面体はプラトンの立体(Platonic solid)とも呼ばれています.

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【2】シュレーフリの証明

 3次元正多面体が5種類あって5種類しかないことは,オイラーの多面体定理(v−e+f=2)と握手定理(多面体の1つの頂点に集まる面の形と数をp,qとすると,pf=2e,qv=2e)から簡単に証明できます.

 高次元でも3次元と同様の方法によって正則胞体を定めることができるはずなのですが,いざ「4次元正胞体は6種類,5次元以上では3種類ある」ことを証明しようとすると簡単にはいきません.

 3次元のオイラーの公式は

  v−e+f=2

ですが,4次元では

  v−e+f−c=0   (シュレーフリ,1852年)

で,3次元のときとは違って定数項がないため,それだけでは頂点,辺,面,胞数の計算ができないという壁にぶつかるからです.

 しかし,前項と同様の方法によって,4次元の空間における正則胞体の必要条件を定めることができます.(p,q,r)すなわち合同な正多面体(p,q)の各面が2つの(p,q)に属し,各辺がr個の(p,q)に属すとしましょう.すなわち,これらの4次元正多胞体はシュレーフリ記号{p,q,r}・・・各頂点にp角形がq面集まる多面体が各辺にr個集まる・・・で表記されるとします.

 3次元正多面体(p,q)を各辺のまわりにr個集めてできる4次元正多胞体の必要条件は,2面角のr倍が4直角未満ですから,正4面体(3,3)の2面角は71°より少し小さいので,1本の辺に3,4,5個の正4面体を置くことができます→(3,3,3),(3,3,4),(3,3,5).

 立方体(4,3)の2面角は直角ですから,1本の辺のまわりに4個の立方体で隙間なく空間を充填します.しかし,(4,3,4)では無限の多面体になってしまいますから,超立方体(4,3,3)は有限胞体になります.

 正8面体と正12面体の2面角は,90°と120°の間にあるので,1辺の周囲には3個の正多面体が置けます→(3,4,3),(5,3,3).正20面体の2面角は120°より大きいので,このようなことはできません.

 すなわち,正4面体に対してはr=2,3,4.正6,8,12面体に対してはr=3.正20面体では許されないので,結局,正多胞体の可能性としては(3,3,3),(3,3,4),(3,3,5),(4,3,3),(3,4,3),(5,3,3)しかあり得ないことがわかります.

 以上の必要条件をまとめると

  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)

  1/q+1/r>1/2   (q,r≧3)

となります.そして,実際にこの6通りの正多胞体が構成できます.なお(4,3,4)は角の和がちょうど4直角となるので,3次元空間充填形です.

 そうすることによって,以下の結果が得られます(境界面p,頂点に集まる面q,辺に集まる胞r).

      境界多面体 境界面p 頂点に集まる面q 辺に集まる胞r

5胞体   正4面体    3        3       3

8胞体   立方体     4        3       3

16胞体  正4面体    3        3       4

24胞体  正8面体    3        4       3

120胞体 正12面体   5        3       3

600胞体 正4面体    3        3       5

 すなわち,4次元の6個の正多胞体とは,正5胞体(胞が4面体で各辺に3つの4面体が集まる),正8胞体(胞が立方体で各辺に3つの立方体が集まる),正16胞体(胞が4面体で各辺に3つの4面体が集まる),正24胞体(胞が8面体で各辺に4つの8面体が集まる),正120胞体(胞が12面体で各辺に3つの12面体が集まる),正600胞体(胞が4面体で各辺に5つの4面体が集まる)である.なお,頂点に集まる胞数は以下の通りである.

      境界多面体 頂点に集まる胞 シュレーフリ記号

5胞体   正4面体    4     {3,3,3}

8胞体   立方体     4     {4,3,3}

16胞体  正4面体    8     {3,3,4}

24胞体  正8面体    6     {3,4,3}

120胞体 正12面体   4     {5,3,3}

600胞体 正4面体   20     {3,5,5}

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【3】高次元の正多胞体と双対性

 R^2の正多角形は無限個ある.それに対して,R^3のなかの正多面体は5種類,R^4では6種類,5次以上では正(n+1)胞体(正4面体の拡張),正2n胞体(正6面体の拡張),正2^n胞体(正8面体の拡張)の3種類しか存在しないことが知られている.

 すなわち,五次元以上のd次元の場合は,2d個の頂点と2^d個の辺をもつ双対立方体(三次元では正八面体),2^d個の頂点と2d個の辺をもつ立方体,d+1個の頂点とd+1個の辺をもつ正単体(三次元では正四面体)の3つですべての正多面体をつくしているのである.

 三次元の場合はこれらの他に2つの正多面体<正十二面体と正二十面体>があり,四次元の場合は他に3つ<正24胞体,正120胞体,正600胞体>あるといったほうがわかりやすいかと思われる.その意味で,3次元・4次元は特殊な次元なのである.

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 3次元には5つの正多面体(プラトン立体)がある.リストアップすると,正4面体,立方体,正8面体,正12面体,正20面体である.正4面体はそれ自身と双対であり,立方体は正8面体と,正12面体は正20面体と双対である.

4次元空間の正多胞体

      境界多面体  頂点数  双対性         3次元対応

5胞体   正4面体     5  自己双対(非中心対称) 正4面体

8胞体   立方体     16  16胞体と双対     立方体

16胞体  正4面体     8   8胞体と双対     正8面体

24胞体  正8面体    24  自己双対(中心対称)

120胞体 正12面体  600  600胞体と双対    正12面体

600胞体 正4面体   120  120胞体と双対    正20面体

 4次元には6種類の正多胞体がある.正8胞体(4次元立方体)のほか,

  正5胞体(4次元正4面体:自己双対)

  正16胞体(4次元正8面体)

  正24胞体(相当する正多面体はない:自己双対)

  正120胞体(4次元正12面体)

  正600胞体(4次元正20面体)

である.正8胞体と正16胞体,正120胞体と正600胞体は互いに双対,正5胞体と正24胞体はそれぞれ自分自身に双対である.

n次元空間の正多胞体(n≧5)

        境界胞体    頂点   双対性  対応

(n+1)胞  n胞体     n+1  自己双対 正4面体・5胞体

2n胞体  (2n−2)胞体  2^n   2^n胞体 立方体・8胞体

2^n胞体    n胞体     2n 2n胞体 正8面体・16胞体

 双対性からみて,正4面体,正6面体,正8面体の多次元への拡張はわかりやすいと思われるが,3次元空間の正12面体,正20面体,4次元空間の24胞体,120胞体,600胞体は,より高次元においては対応するものをもたない.しかし,それよりも,三次元の場合はこれらの他に2つの正多面体<正十二面体と正二十面体>があり,四次元の場合は他に3つ<正24胞体,正120胞体,正600胞体>あるといったほうがわかりやすいだろう.

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 ここで最も気になるのが正24胞体である.正24胞体に相当する3次元正多面体はない.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからである.

 すなわち,正24胞体(24胞,正3角形のみからなる96面,96辺,24頂点)こそが,四次元特有の物体であると考えられるのであるが,正24胞体は,四次元空間で三次元空間の立方体にあたる正八胞体(8胞,24面,32辺,16頂点)と正八面体にあたる正十六胞体(16胞,32面,24辺,8頂点)を重ねてできることから,その意味で4次元版の菱形十二面体に相当する.24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であって,例外中の例外といってもよいものであろう.

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