■4次元図形の投影図(その10)

 宮崎興二先生は数十年前に4次元の正多胞体(5胞体,8胞体,16胞体,24胞体,120胞体,600胞体)の模型を製作された.なかでも正120胞体は宮崎興二先生一番のお気に入りの模型であり,それを受けて中川宏さんは正120胞体の胞心模型を数年前に木工製作している.

 石井源久先生も学生時代には半正多胞体の模型を作っては発表されたことがあるそうだ.今回のコラムでは,石井源久先生の助けを借りて,宮崎興二先生による正多胞体模型について紹介してみたい.

===================================

【1】4次元正600胞体の3次元投影(点心模型)

 正20面体の辺の長さを1,

  a=(√(τ+2))/2=.951057

  b=(√3)/2=.866025

  c=a/τ=.587785

  Δ1=1^3,Δ2=1a^2,Δ3=1b^2,Δ4=1c^2,Δ5=abc

とする.1:aは正20面体の頂点間距離:中心頂点間距離,1:bは正12面体の頂点間距離:中心頂点間距離/τとなる.Δ2面,Δ4面,Δ5面は正20面体の辺心図に現れる面の形である.以下,ゾムツールによる正20面体の辺心図の写真を掲げる.

 中心となる正二十面体の周りに扁平な四面体(α体=Δ1Δ3^3)を20個を互いに接するように集め,できたくぼみにもっと扁平な四面体(β体=Δ3^4)を30個を入れる.β体は長さ1の対辺が直交する等面四面体である.

[1]α体

[2]β体

 このとき,外形はそれぞれの面の中心が少しへこんだ正12面体状になっていて,そのくぼみに四面体(γ体=Δ2Δ3Δ5^2)を5個ずつ計60個おく.そうすると,外形は菱形30面体になって,その菱形のうえにδ体=Δ4^2Δ5^2を2個ずつ60個おく.

[3]γ体

[4]δ体

 そのときにできるくぼみにε体=Δ3Δ4Δ5^2を60個おいて,12・20面体状の稜線ができるようにする.このときできる多面体は12・20面体の正三角形面が凹んだようになっていて,そこにζ体=Δ1Δ4^3を20個を積んでいけばζ体のうえにΔ4面20枚,ε体のうえにΔ4面60枚の計80枚の三角形よりなる正20面体群に属する外形ができる(250+1ピース).このΔ4面は退化した四面体(η体=Δ4)と考えられる.それらは隙間なく密集し,中心部分にあるものほど大きく実形に近いし,外殻に近づくほど扁平になる.

[5]ε体

[6]ζ体

[7]η体

 また,中心となる正二十面体の中心と頂点を結ぶと,20個の四面体(ω体=Δ1Δ2^3)の集まりとなる.

[8]ω体

 η体は表側と裏側の境界と考えられるから

  表270(20+250)+境界60+裏270=600

個の正四面体状胞体が集まった正600胞体になる(270ピース).

===================================

【2】4次元正120胞体の3次元投影(胞心模型)

 中心となる正十二面体の周りに扁平な十二面体(ここではα体と呼ぶことにする)を12個を互いに接するように集め,できたくぼみにもっと扁平な十二面体(β体)を20個を入れる.さらにそのくぼみに12面体(γ体)を12個を置く.これらは隙間なく密集し,中心部分にあるものほど大きく実形に近いし,外殻に近づくほど扁平になる.

 このα体は正五角形を2枚を両極に置き,その間につぶれた五角形(δ面)10枚を置いてできるちょっとつぶれた12面体,β体は両極にδ面を3枚ずつ,側面にもっとつぶれた五角形(ε面)を互い違いに6枚置いたもっとつぶれた12面体,γ体は正五角形2枚とε面10枚でできるもっとつぶれた12面体として構成することができる.δ面とε面は正12面体の辺心図に現れる面の形であるが,これらの計量については,コラム「4次元正120胞体の3次元投影」を参照してほしい.

 中川宏さんはこれまで4次元正120胞体と原始的4次元30胞体の木工胞心模型を作られたことがある.前者は45ピース,後者は15ピースの組み合わせであるが,木工であるから折り紙で作る場合とは違って高い精度の要る仕事となった.

 できあがった4次元正120胞体の3次元投影図を見ると,頂点と稜の連結形態は正しく現れているものの,そこには120個ではなく1+12+20+12=45個の正十二面体があるだけである(45ピース).

 しかし,これは透視図ではなく直投影での話であるから,投影に際して重なり合って見えないのもあるだろう.表側半分しか見えないという事情は4次元でも同じで,隠線処理しないならば2重の多面体が外殻としての大きな多面形の中を埋めつくす.しかし,それならば45+45=90個となるはずである.残りの30個はどこへいったのだろう?

 そこで,できあがったものをよく見ると平面につぶれた切頂黄金菱形30枚が外回りに現れている.これは退化した正十二面体であり,裏に隠れる瞬間の正十二面体と考えることもできる.すなわち,退化した正十二面体を挟んでもう一度内側の正十二面体を数えると全部で45+30+45=120個の正十二面体が集まっていることになる.表側に45個,裏側に45個,その境界に30個というわけである.

 正120胞体の胞心模型の外形は切頂菱形30面体である.菱形30面体の諸計量はf=30,e=60,v=32(a5=12,o3=30)であるから,この切頂菱形30面体は合計42面からなる正20面体群の対称性を有する多面体となる.

===================================

【3】4次元正5胞体の3次元投影(点心模型)

 正四面体を重心で4分割した四面体4つにより,正四面体を作る.その正四面体全体を包む正四面体を考えれば,5つの正四面体状胞体よりなる正5胞体になる(4ピース).

===================================

【4】4次元正8胞体の3次元投影(点心模型)

 白銀菱形六面体4つにより菱形12面体を作る.これが正8胞体の表側で,裏側も考えれば正8胞体になる(4ピース).

===================================

【5】4次元正16胞体の3次元投影(胞心模型)

 正四面体の各面上に各面が直角二等辺三角形の正三角錐を4つ貼り付けると,各側面に対角線が1本ずつ入った立方体ができる.

 その側面を正四面体が対角線をもった正方形に退化したものと考えて,さらに裏側も考えれば5+6+5=16個の正四面体状胞体が集まった正16胞体になる(5ピース).

===================================

【6】4次元正24胞体の3次元投影(胞心模型)

 正八面体の各面上に扁平な8面体を8つ貼り付けて,正方形面に対角線が2本ずつ入った立方八面体を作る.

 その正方形面を正八面体が対角線をもった正方形に退化したものと考えて,さらに裏側も考えれば9+6+9=24個の正八面体状胞体が集まった正24胞体になる(9ピース).

===================================