■4次元図形の投影図(その9)
4次元正120胞体の3次元投影図形は,正十二面体を中心としてその周りをつぶれた12面体α,β,γが取りまいた45粒子体となりました.α体とγ体は正五角形面が両極にあり,その間にそれぞれδ面10枚,ε面10枚が挟まれた形,β体は両極にδ面が3枚ずつ,側面にε面が互い違いに6枚配置した形です.
ところで,立方体から正十二面体を木工製作するには,立方体の東西南北天地面のうち,天地面に対しては東西方向の辺だけ(南北方向の辺は削らない),東西面に対しては南北方向の辺だけ(天地方向の辺は削らない),南北面は天地方向の辺だけ(東西方向の辺は削らない)を等距離等角度で切稜して,もとの立方体表面の名残りとして1本の稜だけが残るようにすると不等辺5角形面よりなる五角十二面体になります.
そして,切稜角を
tanφ=1−d → φ=31.7175°
すなわち,二面角を116.565°にすると正十二面体ができあがります.この方法は2次元の角度定規のみを使用した木工製作法というわけです.→コラム「正多面体の木工製作(その3)」参照
α体・β体・γ体などの五角十二面体も,正十二面体の場合と同様に立方体(四角六面体)をある二面角でもって切稜して作ることができるのですが,歪んだ多面体なので余分な手間と工夫が必要になります.最も簡単なのは3次元の角度定規を使ってα体・β体・γ体を木工製作する方法ですが,木工では二面角が重要ですから立方体から正十二面体をうまく切り出したときのように2次元角度定規の範囲内での木工にこだわって,その工作可能性を示しておくことはとても大事なことと考えられます.
そこで,今回のコラムではα体・β体・γ体を3次元定規を使わずに作る方法と2種類の黄金菱面体A6,O6から切り出すことのメリットについて考えてみました.
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【1】3次元定規を使わないα体・β体・γ体の木工製作
α体,β体,γ体のそれぞれに現れる二面角(°)を計算すると
α体:121.717,120,108
β体:144,120,108,90
γ体:148.282,144,60
と求められます.
当初,α体・β体・γ体を立方体あるいは正四角柱から作ろうとすると二面角だけでは済ますことはできず,どうしても3次元角度定規が必要となるものと考えられました.たとえば,α体とγ体では正五角形面と各稜とのなす角度などを規定する必要がありますし,また必須ではないものの工作精度を上げるためには各面間の距離なども必要です.いずれも平行12面体ですから6面できればあとは中心に対して平行に削ることによって残りの6面を作ることができます.
α体 β体 γ体 正12面体
稜面角 127.377 148.282 153.435 121.717
正五角形面間距離 1.80172 × 0.688196 2.22704
δ面間距離 2.11804 1.30902 × ×
ε面間距離 × 2.11803 1.30902 ×
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α体・β体・γ体の木工製作にとって3次元角度定規が必要であることを述べましたが,相手が4次元の立体を3次元に投影した歪んだ多面体ですから仕方ないかもしれません.しかし,諦めるのはまだ早く,次に2次元角度定規の範囲内に木工を簡素化できるかどうかについて考えてみました.
それにはもっと詳細なα体・β体・γ体の諸計量値が必要になりました.例えば,δ面とε面の辺の長さは
δ ε
a 1 1
b 0.866025 0.587785
c 0.951056 0.866025
d 0.951056 0.866025
e 0.866025 0.587785
ですが,2次元定規の角度を定めるにはをこれだけでは足りず,頂点Aから対辺に向けて下ろした垂線の長さも必要になります.すなわち,五角形の扁平度といってもよいものですが,それらの計量値は
正五角形面 1.53884
δ面 1.30902
ε面 0.809016
となります.
結局,3次元定規を使わずに2次元角度定規の範囲内で済ませるためには,これらの値を含め平面投影図に現れる六角形の3辺の長さと3つの角度が必須と考えられました.計量値の詳細については近々,中川宏さん自身の手によって文献中に紹介させることになっています.
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【2】A6,O6は必須か?
次に,立方体以外の四角六面体(菱形六面体や平行六面体)を用いることによってα体・β体・γ体の木工製作が簡素化できるかどうかについて考えてみました.
まず,菱形面の鋭角が60°<θ<90°の範囲にある合同な菱形だけでできている多面体について考えます.たとえば,頂角が72°の菱形ではやせた平行6面体A6と太った平行6面体O6しかできません.また,各面の対角線の長さの比が白銀比の菱形からなるものを考えると,A6,O6のほかに菱形12面体K12が加わります.
ところが,各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる菱形多面体は多彩であって,A6,O6のほかに菱形12面体(第2種)B12,菱形20面体F20,菱形30面体K30の5種類となります.
コラム「菱形多面体の構成」で述べたように,ゾーン多面体は
f=n(n−1)=2,6,12,20,30,42,56,・・・
e=2n(n−1)
v=n(n−1)+2
なのですが,菱形多面体には
12≦e≦60,6≦f≦30
という制限がありますから,
f=6,12,20,30
ですべてで,f=12にはK12とB12の2種類あるというわけです.
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菱形多面体の鋭角(acute)m個と鈍角(obtuse)n個が集まる頂点をamonで表すことにすると,必要条件として
Σmi=Σni=e
を満たすような頂点が可能となります.実際には
扁長菱面体:a3=2,a1o2=6
扁平菱面体:a2o1=6,o3=2
菱形十二面体:a4=6,o3=8
菱形十二面体(第2種):a4=2,a3o1=4,a1o2=4,o3=4
菱形二十面体:a5=2,a3o1=10,o3=10
菱形三十面体:a5=12,o3=20
となるのですが,菱形面の鋭角が60°<θ<90°の範囲にある菱形多面体ではo3は扁長菱面体を除く多面体に現れることがわかります.
また,1つの頂点での会合面数をqとすると
q=3:a3,a2o1,a1o2,o3
q=4:a4,a3o1
q=5:a5
であり,q=6となる頂点は不可能です.
木工では二面角が重要になるのですが,そこで黄金菱形,白銀菱形,頂角72°の菱形からなる菱形多面体の二面角を求めてみることにしました.
黄金菱面体 白銀菱面体 頂角72°の菱面体
頂角 63.4350 70.5288 72
a3 72 75.5227 76.3456
a2o1 36,144 60,120 63.435,116.565
a1o2 72,108 75.5227,104.477 76.3456,127.175
o3 144 120 116.565
a4 112.456 120 ×
a3o1 108,144 × ×
a5 144 × ×
a3とa1o2,o3とa2o1では同じ二面角が出現していますが,黄金菱面体ではさらにa5とa3o1,o3,a2o1が同じになります.この表からα体・β体・γ体の木工製作に利用できそうなものは黄金菱面体ということになります.
黄金菱面体では
A6:a3=2,a1o2=6
O6:a2o1=6,o3=2
となりますが,上の表より二面角はそれぞれ
A6:72,108
O6:144,36
となることがわかります.
二面角は
α体:121.717,120,108
β体:144,120,108,90
γ体:148.282,144,60
ですからA6の108°はα体とβ体に,O6の144°はβ体とγ体に実現されています.ですから,A6とO6をうまく切るとα体,β体,γ体が得られるかもしれません.A6とO6を切ってα体,β体,γ体を作るという問題が派生するというわけです.もちろん,A6とO6は4角6面体ですから,5角12面体であるα体,β体,γ体にする切り方を考えなければならないわけですが・・・.
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すぐにわかるのはβ体の作り方です.δ面とε面の頂角は
δ ε
A 116.565 138.1898
B 100.8124 79.1876
C 110.9051 121.7175
D 110.9051 121.7175
E 100.8124 79.1876
であり,δ面の頂角Aは黄金菱形の鈍角と一致します.したがって,β体のδ面6枚はO6上に載っているわけで,β体はO6の頂点o3には手を加えずに頂点a2o1だけを二面角が直角になるように切頂することで作ることができます.
同様に,α体のδ面4枚はA6上に載っていること,γ体のε面4枚がO6上に載っていることも確認されます.
しかし,α体・γ体の少なくともあと2本の稜がA6,O6上に載っていない限り,α体・γ体を立方体あるいは正四角柱から直接的に作る場合に較べて格段のメリットがあるわけではありません.詰まるところ,α体・β体・γ体は立方体・直方体からA6,O6を経由せず直接作るのが最良かつオーソドックスな作り方と考えられました.
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