■数直線上の集合(その116)

問題の設定

隣り合う2点間の距離が一定値R以下(相対稠密)かつ一定値r以上(一様離散)という2つの重要な性質を満たす集合をDelone集合という。平面上の点配置の場合、半径rの任意の円が多くて1個の点を含みかつ半径Rの任意の円が少なくとも1個の点を含むような点の集まりのことであるから、各点はあまり大きな隙間をあけないようにバラバラに配置されていることになる。すなわち、Voronoi領域の面積がほぼ一定で、ヒマワリの花序にとって最も効率の良い配置と考えることができる。ところで、[1]によればDelone 集合は無限の広がりをもつ空間に対して意味のある数学的概念で、計算機実験ができないような無限のかなたでの性質である。実際、結晶ではこのような局所的に限定された状態から大域的な周期性を生じてくる。しかしながら、無限の広がりをもつヒマワリは存在しない。そこで、ここでは[2]にしたがって、Fermatらせん上に配置された点列の「原点付近での振る舞い」について紹介したい。以下、黄金比をτで表す。

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代表的な平面らせん

[a] Bernoulliらせん:r=a^θ

[b] Archimedesらせん:r=aθ

[c] Fermatらせん:r^2=aθ

では、隣接する渦巻きの間隔は原点から遠いほどそれぞれ広くなる・等間隔・狭くなる。このような明確な違いにもかかわらず、ヒマワリの花序では[a]と[c]がしばしば混同される。混乱の原因は両者とも黄金らせん・Fibonacciらせんという別名で呼ばれるためと思われる。これらは同音異義語であって、とかく別名の呼び方には誤りが起こりがちである。

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Fermatらせん上の点列

平面極座標(rn,θn)で表される点列を考える。動径rnについては,n^1/2のオーダーであることがDelone集合になるための必須条件である。そこで、 (rn,θn)=(n^1/2,2πnα), α(0,1)を考える。このらせんはFermatらせんになるが、rn=n^1/2は最初のn点が半径n^1/2の円に含まれていることを意味する。一方、偏角θnについては無理数であるだけでは十分条件にならず、α=1/τ=[0:1,1,1,1,・・], α=1/τ^2=[0:2,1,1,1,・・]のとき、原点付近での最適配置が得られる(図1)。1/τ+1/τ^2=1より、一方が時計回り・他方が反時計回りに回転するだけで両者に本質的な違いはない。また、左巻き5重、右巻き8重、左巻き13重らせんなど互いに交わる多重らせんが現れる。これがFibonacciらせんと呼ばれる所以であるが、Fibonacciらせんの最も顕著な性質は点分布の一様性であり、それ以外の角で作られたパターンと対比すると著しい特徴がある。α=π-3=[0:7,15,1,292,1,・・]では中心部に7本、周辺部に113本(図2)、 α=e-2=[0:1,2,1,1,4,1,1,6,1,1,8,1,・・]では中心部に7本、周辺部に71本のらせんが現れる(図3)。これらは22/7,355/113がπの、19/7,193/71がeの非常によい有理数近似になるためである。

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結語

Fermatらせんと特別な角度137.5°が結びつくと、原点付近に一様な点分布が出現することを示した。黄金比τに対する連分数は最もゆっくり収束するが、有理数近似の収束速度が緩やかであることが点分布の一様性に影響している。近接効果に対して、無限遠ではある定数B があって連分数展開の部分商がすべてB より小さいことがDelone 集合になるための必要十分条件である[1]。α=e-2 では無限に大きい部分商が存在するためDelone 集合にはならないが、連分数展開が有限個を除いてすべて1、たとえばα= [0:9,8,5,1,1,1,・・・] のような形に表現される場合はDelone 集合になる。残念ながら、無限遠での挙動は原点の近くだけ計算機実験しても予測困難で、何もいえないのである。

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