■数直線上の集合(その50)

 17世紀になってイギリスのニュートン、ドイツのライプニッツによる微分積分学の確立以降は、収束する無限級数を使ってπの計算がなされました。πと関連をもつ無限級数として最初に発見されたものは、1671年に発見されたグレゴリー・ライプニッツ級数

 π/4=arctan1

    =1/1−1/3+1/5−1/7+1/9−1/11+・・・

=Σ(−1)^n-1 ・1/(2n+1)

があげられます。

 ライプニッツはπ/4がすべての奇数の逆数を交互に加えたり引いたりしてえられる無限級数の和に一致するという事実に対して「神は奇数で楽しむ」と書いていて、この式に自然の神秘の深遠さを感じ、外交官への道から数学の研究の道に転じたといわれています。

 arctan1=π/4を利用したこの展開公式は簡単な形の式ですが、ゆっくりとしか収束しないので、20項まで計算しても3.042までしか求まらないし、3.14まで一致するのに300項も必要です。第n項まで計算したときの誤差は大体1/(2n+3)になり、1000項まで計算してもせいぜい3桁ぐらいです。したがって、グレゴリー・ライプニッツ級数はπの近似値を求めるのには実用的ではないのですが、この式の右辺は

 (1+1/3)^-1・(1−1/5)^-1・(1+1/7)^-1・(1−1/11)^-1・(1+1/13)^-1・・・

というように素数についての積の形に書き直すことができます。

 グレゴリー・ライプニッツ級数は項数をのばすごとにπの上下の限界を示しうるものですが、収束の緩慢な点が致命的でした。そこで、オイラーは、公式

arctana+arctanb=arctan((a+b)/(1−ab))

を使ってグレゴリー・ライプニッツ級数よりもっと速く収束する次のような無限級数を作っています(1737年)。

 π/4=arctan1

    =arctan(1/2)+arctan(1/3)

    =(1/2−1/3・2^3 +1/5・2^5−1/7・2^7+・・・)

     +(1/3−1/3・3^3+1/5・3^5 −1/7・3^7 +・・・)

 この級数はグレゴリー・ライプニッツ級数ほどは悪くありませんが、それでもなお良い値がでるまでの計算回数は多くなります。

また、オイラー級数Σ1/n^sの収束の精度も良くありません。オイラーの第1級数

1/1^2 +1/2^2 +1/3^2 +1/4^2+・・・=π^2/6

を使って、π2 /6を小数点以下7桁まで正確に求めるためには、だいたい1000万項までの計算が必要になります。

 πを計算するための無限級数のうちでもっともポピュラーなものはニュートンと同時代のマーチンによって発見された次のような式です(1706年)。

 π/4=4arctan(1/5)−arctan(1/239)

=4(1/5−1/3・5^3 +1/5・5^5−1/7・5^7 +・・・)

     −(1/239−1/3・239^3+1/5・239^5 −・・・)

 第2項の級数は非常に収束が速く、第1項の級数も1/5^2=0.04ぐらいの比で次々に小さくなりますから、数値計算に十分使えます。マーチンの級数の計算誤差は4/(2n+3)・(1/5)^2n+3ぐらいで、マーチン自身はこの公式のよってπの値を100桁ほど求めました。計算機のない時代のことですから、当然手計算であって神業ともいうべき話です。

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