■トーラスの展開図(その6)

【3】オイラー標数

 三角形分解定理(ラドー,1920年代)により,すべてのコンパクトな曲面は平面モデルで表現することができるのですが,閉曲面の位相的分類定理の証明には三角形分解による多角形表示のアイディアを用います.

 たとえば,2Tをa,b,c,dというラベルの付いた曲線に沿って切り開くと8角形の平面モデルが得られます.2つ穴トーラス面を真ん中で2つに分けると,トーラス面に穴のあいたものaba^(-1)b^(-1)xとxcdc^(-1)d^(-1)ができます.これらを切り開くとどちらも5角形となります.これをxで2つつなぎ合わせると辺xは内部に吸収され,8角形になるというわけです.そして,任意の多角形表示がすべてm個のトーラスを繋げたものか,m個の射影平面(ボーイの曲面)を繋げたもののいずれかになることを示すことになります.

 ここではコンパクトな曲面の不変量として,オイラー標数を取り上げます.

  χ(S)=2,χ(T)=0,χ(K)=0,χ(P)=1

  χ(mT)=2−2m,χ(mP)=2−m

  χ(K#mT)=−2m,χ(P#mT)=1−2m

すなわち,閉曲面に対してオイラー標数が1つに定まるということです.

 2つのコンパクトな曲面が同相となるための必要十分条件は

[1]同じオイラー標数をもつ

かつ

[2]ともに向き付け可能かまたはともに向き付け不可能である

ことです.このことから5Tと7Tは決して同相にはならないし,67Pと45Pも決して同相にはならないことが示されます.

 Kは2Pと同相なので,向き付け不可能なコンパクトな曲面はm(≧0)個の穴をもつトーラスに1個あるいは2個の交差帽をつけたものと見ることができます.ハンドルを取り付けるには開円板を2個,交差帽を取り付けるには取り除く必要がありますから,種数mは途中に現れる穴の個数,最後にできあがる曲面のオイラー標数は2から取り除いた開円板の個数を引いた数に等しいことがわかります.

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【4】雑感

穴が2つあるトーラスの展開図は八角形に矢印を書いたものになります

 閉曲面の位相的分類が成功したのは,曲面を三角形に分割して単純な記号の羅列に変換できたからです.3次元以上の多様体に関してはこのような分類定理は存在しません.3次元多様体の位相的分類は数百倍難しくなりますが,考え方としては概ね同じ方向でできると思われます.

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