■ケプラーと正多面体(その19)

 連続かつ閉軌道はすべて従円と周転円を使って記述することができます.それは波を正弦曲線に分解できるのと同様に,複素平面上の経路は円運動の組み合わせとしては分解できることから理解できます.すなわち,複素数とフーリエ級数はその数学的理由になっているというわけです.

  [参]ベロス「どんな数にも物語がある」

には,一番お大きい円が従円で,9999個の周転円からなる惑星運動の図が掲載されています.

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 このように,初期のコペルニクス模型は徐々に複雑なものとなっていきましたが,より複雑になるにしたがい,初期のエレガントさは徐々に失われてしまいました.

 パラダイムシフト(発想法の転換)が必要であったのですが,ケプラーの結論は「惑星の軌道は太陽を中心とする円軌道である」とするコペルニクスの地動説に反するものでした.ケプラーはこの思想の壁を破って「惑星は楕円軌道を描き,太陽はそのひとつの焦点にある」に到達したのです(1609年).

<第1法則>惑星は太陽を焦点のひとつとする楕円軌道上を動く.

<第2法則>面積速度は一定である(角運動量保存則).

<第3法則>公転周期の2乗は平均距離の3乗に比例する.

すなわち,惑星の軌道は完全無欠な円ではなく楕円であり,太陽はその一つの焦点の位置にあるとすることによって矛盾が解決されることを導き出したのです.

 彼は円軌道という前提に疑問をいだき,これに合う理論を求めてケプラーの法則に到達します.コペルニクスの地動説(heliocentric theory:太陽中心体系)はそれまで宇宙の中心と信じられてきた地球(geocentric theory)を一つの惑星と考え,地球中心のモデルを捨て去り太陽中心体系を確立することによって,地球を自己中心的な位置から解放しました.そして,ケプラーが円の呪縛すなわち完全な等速円運動に固執するコペルニクス・ドグマを断ち切ったのです.

 惑星の軌道は完全な円ではなく離心率のごく小さな楕円を描き(不等速楕円運動),太陽はその楕円の1つの焦点の位置にあるわけですが,偏心率の大きな楕円を描く惑星が火星だったというわけです.答えを知っている私たちから見れば常識のように思っている法則なのですが,それまで支配的であった見方・考え方を克服して確立されたもので,必ず何らかの美しい法則がこの宇宙を支配しているという強烈な思い入れ(狂信?)がケプラーの法則の発見へとつながったわけです.

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