■ラマヌジャンのτとΔ(その78)
ところで,1973年,イギリスのケンブリッジ大学で誕生し,コンウェイによりモンスターと命名・愛称された散在型有限単純群モンスターを線形群の中に埋め込むとすると,最低でも196883次の行列GL(196883,R)が必要になります.
このモンスターの既約表現の次数dnと係数cnを小さい方から数個あげると
d0=1
d1=196883 c1=196884
d2=21296876 c2=21493760
d3=842609326 c3=864299970
となるのですが,j関数のq展開に現れる係数196884とモンスター群の既約表現の最小次数196883がほとんど等しいことに注目すると,q,q^2,q^3等の係数は
c1=d0+d1
c2=d0+d1+d2
c3=2d0+2d1+d2+d3
のようにモンスターの既約表現の簡単な線形結合となっていることを見いだされました.これは単なる偶然の一致なのでしょうか?
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ムーンシャイン予想の出発点の出発点であるマッカイ・トンプソン予想,コンウェイ・ノートン予想には,このような不思議な事実がたくさん収集されています.しかし,後にボーチャーズが,現代物理学の弦理論にその原点をもつヴィラソロ代数(頂点作用素代数)を用いることによって,これは単なる偶然の一致ではなく,そこに何か真実が隠されていることをつきとめます.
ボーチャーズはその功績によりフィールズ賞を受賞するのですが,さらに,ボーチャーズは一般化されたカッツ・ムーディー・リー代数を導入して,マクドナルド恒等式を導いた論法を適用することにより,分母公式は
J(p)−J(q)=p^(ー1)Π(1−p^mq^n)^c(mn)
となることを示しました.この等式は19世紀のデデキントのイータ関数の変形のようでもあり,ヤコビの3重積公式
Σq^(m^2)y^m=Π(1−q^2n)(1+yq^(2n-1))(1−yq^(2n-1))
にも結びついています.
これにより,ムーンシャイン予想の一応の解決となったわけですが,ムーンシャイン予想は保型関数論のように古典的なものでもあり,また,物理学の弦理論のように新しいものでもあったというわけです.
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