■高次元の正多面体(その16)
【4】4次元正多胞体の胞数
正多面体(p,q)を境界多面体として,その頂点数,辺数,面数を(v1,e1,f1)としましょう.すると,前述したように
1/e1=1/p+1/q−1/2
C個の各胞に2e1/p個ずつの面があり,各面が2個の胞に共通なことより
2Ce1/p=2F
このことの双対として,頂点付近は双対正多面体(r,q)の形になりますから,頂点図形を(v2,e2,f2)とすると,
1/e2=1/r+1/q−1/2
各面上にp個ずつ辺があり,各辺にr個ずつの面が会するので
pF=rE
また,各頂点に2e2/r個ずつの辺が会し,各辺の端点は2個ずつですから,
2Ce2/r=2E
これより,
V:E:F:C=1/q+1/r−1/2:1/r:1/p:1/p+1/q−1/2
となり,V,E,F,Cの相互関係は求まったことになります.
しかし,この比例定数をλとして,オイラー・ポアンカレの公式
V+F=E+C
に代入しても,それだけでは構成要素(頂点,辺,面,胞,・・・)の個数が定まりません.偶数次元ではオイラー・ポアンカレの公式に定数項がつかないので,両辺とも
λ(1/p+1/q+1/r−1/2)
に退化してしまうからです.
3次元の場合とは違って,V,E,F,Cを(p,q,r)の関数として簡単に表す公式はなく,これが4次元の壁となっているのですが,この壁を突破する方法として,比例定数λが基本単体の個数gの1/4に等しいこと,したがって,基本単体の個数gを計算するとV,E,F,Cが求められることが参考図書:
一松信「高次元の正多面体」日本評論社
に載っています.
しかし,それよりも(3,3,3)(3,3,4)(4,3,3)がそれぞれ4次元の正単体,双対立方体,超立方体であること,その胞数が5,16,8であることより比例定数λを求める方が簡単と思われます.以下では,この方法について説明します.
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fkをn次元多面体のk次元面の数とし,
(f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)
を構成要素とするn次元正多胞体では,組み合わせ的方法によって,k次元胞数fkが求められます.たとえば,正単体では
fk=(n+1,k+1)
なのですが,k=n−1のときfk=n+1であって,胞数はn+1と計算されます.同様に,双対立方体では
fk=2^k+1(n,k+1),k=n−1のとき,fk=2^n
立方体では
fk=2^n-k(n,k),k=n−1のとき,fk=2n
となります.
もちろん,
正単体:fk=(n+1,k+1)
双対立方体:fk=2^k+1(n,k+1)
立方体:fk=2^n-k(n,k)
はオイラー・ポアンカレの定理:
f0−f1+f2−・・・+(−1)^(n-1)fn-1=1−(−1)^n
すなわち,nが奇数なら2,偶数なら0を満たします.この定理は正多胞体に限らず,n次元凸多胞体について常に成立します.
どの次元にも3種類の標準正多胞体(正単体,超立方体,双対立方体)があり,4次元正多胞体(p,q,r)=(3,3,3)(3,3,4)(4,3,3)がそれぞれ4次元の正単体,双対立方体,超立方体であることは見当がつくわけですから,その胞数は5,16,8であることを利用して,残り3つの4次元正多胞体の胞数を求める方が簡単です.厳密な証明とはいえませんが,胞数を求めるだけであれば,このような「不完全な証明」も可能です.
そうすることによって,以下の結果が得られます(境界面p,頂点に集まる面q,辺に集まる胞r).
境界多面体 p q r λ
5胞体 正4面体 3 3 3 30
8胞体 立方体 4 3 3 96
16胞体 正4面体 3 3 4 96
24胞体 正8面体 3 4 3 288
120胞体 正12面体 5 3 3 3600
600胞体 正4面体 3 3 5 3600
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5次元正多房体(p,q,r,s)の場合も,これまでと同様に4次元正多胞体(p,q,r)をs個ずつくっつけますから,4次元正多胞体の二面角のs倍が4直角未満であることが必要です.
その可能性は(3,3,3,3)(3,3,3,4)(4,3,3,3)の3通り,すなわち,5次元の正多房体は標準正多胞体に限られます.これらが5次元の正6房体,正10房体,正25房体になるというわけです.なお,(4,3,3,4)(3,3,4,3)(3,4,3,3)は等号が成立するので,4次元の空間充填形になることが理解されます.
また,n次元空間において,標準正多胞体以外に正多胞体がなく,二面角がそれぞれ72°,120°より大きければn+1次元においても標準正多胞体以外にはあり得ません.二面角はnとともに増加するので,n次元以上の空間では3種類の標準正多胞体しかありえないことになります.このような状況はn=5で生ずるので,6次元以上の空間でも3種類の標準正多胞体に限られることになります.
高次元の正多胞体といっても,5次元以上では3種類の標準正凸多胞体しかなく,5次元正多房体の房数は正6房体,正10房体,正25房体になることも同様にして「不完全な証明」が可能というわけです.なお,5次元以上では凹正多胞体も存在しないわけですから,その意味では平凡な次元といってよいのですが,それに対して4次元は本質的に多彩です.
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