■高次元の正多面体(その5)
【3】オイラー・ポアンカレの定理
凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,
v−e+f=2 (オイラーの多面体定理)
が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈されます.
量(v−e+f)はオイラー標数と呼ばれます.オイラー標数は幾何学において重要な概念である位相不変量の草分けであり,一般に,図形がいくつかの3角形によって分割されているとき,
頂点の数−辺の数+3角形の数
は分割の仕方によらず定まり,図形に固有な量になるというものです.例えば,平面図形(多角形)は,1つの面が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますから,オイラー標数は1となり,また,種数(穴の数)gの向き付け可能な閉曲面の場合は2−2gとなることはよく知られています.
オイラーの多面体定理を一般化したものが,オイラー・ポアンカレの定理です.オイラー数はベッチ数の交代和(奇数次元に対応する数には−,偶数次元に対応する数には+の符号を付ける)
Pv−Pe+Pf−Pg+Ph−Pi+・・・
に等しいというのが,オイラー・ポアンカレの内容ですが,ベッチ数(19世紀の数学者に因んだ名前)とは,形には関係しないで,接触と分離にだけ関係するトポロジカルな示性数で,簡単にいえば図形の中に潜む種々の次元の穴の数(閉じた回路)のことです.
二次元における正多角形,三次元における正多面体と同じ概念が,四次元における正多胞体で,正(5,8,16,24,120,600)胞体の6種類あります.胞の個数をcで表すと,4次元空間では,
v−e+f−c=0
というオイラー・ポアンカレの定理が成り立っています.
オイラー・ポアンカレの定理の証明は,比較的簡単です.
(証明)
線分と三角形および四面体は,それぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形です(単体:シンプレックス).線分は2つの端点(0次元の境界要素)をもち,その内部は1次元です.三角形は3つの頂点(0次元)と3つの辺(1次元)をもち,その内部は2次元です.四面体は4つの頂点(0次元)と6つの辺(1次元)および4つの面(2次元)をもち,その内部は3次元です.
これらの数をまとめて書くと
2,1
3,3,1
4,6,4,1
ですが,これらの数はパスカルの三角形の一部分に相当しています.これから類推すると4次元のシンプレックスは5,10,10,5,1,すなわち5つの頂点と10辺,10面,5胞(正5胞体)になります.
n次元単体にはn+1個の頂点があり,それに含まれるk次元単体の個数はn+1個の頂点からk個の頂点を選び出す仕方の数n+1Ckに等しいことがわかりますが,これより,n次元単体についてはv=n+1C1,e=n+1C2,f=n+1C3,c=n+1C4,・・・.
また,2項定理より,
n+1C0−n+1C1+n+1C2−・・・+(-1)^nn+1Cn+1=0
ですから,
Pv−Pe+Pf−Pg+Ph−Pi+・・・=1±1
すなわち,nが奇数のとき2,偶数のとき0になることがわかります.
すべて胞体はいくつかの単体によって分割されますが,得られる値は分割の仕方に依存しないことが証明できますから,任意の胞体についてもこれが成り立つことが理解されます.
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