■18世紀における微積分(その32)

 n→∞のとき,

  (1+1/n)^(n+1/2)

はeに収束し,かつ

  (1+1/n)^(n+1/2)>e

となる.

 この不等式の面白いところは,指数関数の引数^(n+1/2)である.この^(n+1/2)はスターリングの公式にも現れる.

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【1】スターリングの公式

 数列{an}と{bn}がともに無限大に発散し,差{an−bn}は無限大に発散するが,比{an/bn}は1に近づくという例に,xを越えない素数の個数を与える近似的な公式(素数定理)

  π(x)〜x/logx

や階乗n!の近似値を与える公式として有名なスターリングの公式があります.

  n!〜√(2πn)n^ne^-n

  n!〜√(2π)n^(n+1/2)e^-n

 ”〜”記号は漸近的に等しい,すなわちxが十分大きいとき両者の比が1に近づくという意味であって,両者の差がなくなるという意味ではありません.いいかえれば,この近似式の絶対誤差はxの増大とともに増大するが,相対誤差は減少する,つまり,左辺と右辺の比はxを∞にすると極限が存在して0でも無限大でもなく,1に収束する,

  π(x)/(x/logx)〜1   (x→∞)

  n!/(√(2πn)n^ne^-n)〜1   (n→∞)

ということです.

 スターリングの公式では,n=8のとき相対誤差は約1%ですが,nが大きくなるほど相対誤差は小さくなります.

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 スターリングの公式を誘導してみましょう.

  logn!=log1+log2+・・・+logn=Σlogx

ここで,y=logxのグラフを幅が1の長方形に分割していくと,xが十分大きければ相対的に和の間隔が小さくなるので,和は積分に置き換えられます.

  Σlogx≒∫(1,x)logtdt

logxの原始関数は置換積分よりxlogx−x+Cと計算されますから,右辺はxlogx−x+1となります.したがって,

  n!≒en^ne^-n

が得られます.

  logn!=nlogn−n+o(n)

     ただし,limo(n)/n=0

としても大体了解されますが,もっと正確に近似すると

 ∫(0,n)logtdt<logn!<∫(1,n+1)logtdt

より

  nlogn−n<logn!<(n+1)log(n+1)−n

したがって,両辺の相加平均に近い(n+1/2)logn−nでlogn!を近似できることになり,

  ∫(1,x)logtdt

  =log1+log2+・・・+logx−1/2logx+δ

であること,また,ウォリスの公式

  √π〜(n!)2 22n/(2n)!√n

より,結局,

  n!〜√(2πn)nn e-n

にたどりつきます。

 スターリングの近似公式は階乗の一般化であるガンマ関数の近似値としても使われています.

  Γ(x+1)=∫e^-tt^xdt〜√(2πx)x^xe^-x

近似の程度を進めると

  Γ(x+1)〜√(2πx)xx e-x[1+1/(12x)+1/(288x^2)-139/(51840x^3)-.....}

が得られます.これらの公式ではxが大きくなるほど相対誤差は小さくなります.

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【2】スターリングの公式の別証

(1) f(x)が2回連続微分可能で、f''(x)>0 (狭義の凸関数)で

  であるならば、

  ∫(a,b)f(x)dx > (b-a)f((a+b)/2)

(2) ∫(n,n+1) 1/x dx > 1/(n+1/2)

(3)∫1/x dx = log x

より

∫(n,n+1) 1/x dx = log(n+1)-log(n)=log(1+1/n)>1/(n+1/2)

両辺に(n+1/2)をかけると

(n+1/2)log(1+1/n)>1

両辺のexponentialをとると

(1+1/n)^(n+1/2) >e

が成り立つ.

 以上より,

  nlogn−n<logn!<(n+1)log(n+1)−n

は,両辺の相加平均に近い(n+1/2)logn−nでlogn!を近似できることになり,

  ∫(1,x)logtdt

  =log1+log2+・・・+logx−1/2logx+δ

 Stirlingの公式の大体の形は(n!/n^n+1/2・e(−n)がn→∞のときに一定の極限値をもつ)はいろいろな方法で導かれますが,その極限値を正しく√(2π)とするにはWallisの公式が不可欠のようです.実際これまでの証明はすべてWallisの公式(ないしそれと同等の結果)を活用しております.

 したがって,これ以降は,ウォリスの公式

  √π〜(n!)2 22n/(2n)!√n

を使うのは問題ありません.これより,結局,

  n!〜√(2πn)nn e-n

にたどりつきます。

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【補】ウォリスの公式

(証)  1/2B(1/2,(n+1)/2)=∫(0,π/2)(sinθ)^ndθ

この値をSnとおくと,部分積分により漸化式

  Sn=(n-1)/nSn-2

が得られるから,

  n=2k(偶数)なら1・3・・・(2k-1)/2・4・・・(2k)*π/2

  n=2k+1(奇数)なら2・4・・・(2k)/1・3・・・(2k+1)

 これより

  lim1・3・・・(2k-1)/2・4・・・(2k)*√(k)=1/√(π)

変形するとウォリスの公式

  (2n)!/(2^nn!)^2√(n)=1/√(π)

が得られる.

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