■18世紀における微積分(その10)
[1]∫exp(-x^2)dx
[2]∫sinx/xdx
のように初等関数にならないものにも幾何学的考察はあるのだろうか?
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[1]ガウス積分
正規分布は一般的な誤差の分布関数で,その確率密度関数,累積分布関数それぞれ
f(x)=1/√2πexp(-x^2/2)=φ(x)
F(x)=∫(-∞,x)f(t)dt=Φ(x)
と表されます.ここでは,正規分布の累積分布関数Φ(x)に関連して,
I=∫(0,∞)exp(-x2)dx
の値を計算してみます.
ケルビン卿の銘言に「数学者とは
∫(-∞,∞)exp(-x^2)dx=√π
を1+1=2のように自明だと思っている人である」とある.われわれは数学者ではないが、極座標を用いることによって,簡単に数学者になることができます.
I^2=∫(0,∞)exp(-x2)dxint(0,∞)exp(-y2)dy(2重積分)
=∫(0,π/2)∫(0,∞)exp(-r^2)rdrdθ(極座標変換)
より,結局,I=√π/2となります.
以前より,どうして正規分布に円周率πが現れるか疑問視しておられた方も多いと思いますが,極座標に変換することによって,πが自然に入り込んできます.また,ここでは2重積分を用いてガウス積分を解きましたが,複素積分を用いると,もっと直接的に角度と関係していることが理解されます.ともあれ,πは幾何のみならず,統計にも使われることになります.
また,x^2=tとおくと,ガウス積分とガンマ関数との面白い関係
√π=2I=2∫(0,∞)exp(-x^2)dx=∫(0,∞)exp(-t)/√tdt=Γ(1/2)
も得られます.
なお,逆関数Φ^-1(x)については
∫(0,1)Φ^-1(x)dx=0
∫(0,1)[Φ^-1(x)]^2dx=1
∫(0,1)xΦ^-1(x)dx=1/(2√π)
が成り立ちます.
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[2]シンク積分
シンク関数(カージナルサインとも呼ばれる)とそれに類似のジンク関数はそれぞれ
sinc(x)=sin(πx)/(πx)
jinc(x)=J1(πx)/(2x) (J1は1次のベッセル関数)
で定義されます.
どちらも,光の回折の干渉縞の強度分布を表す関数であり,シンク関数は1本スリットがつくる1次元的回折像,ジンク関数は円孔スリットがつくる2次元的回折像として応用上重要であり,
sinc(0)=1,sinc(n)=0,∫(-∞,∞)sinc(x)dx=1,∫(-∞,∞)sinc2(x)dx=1,∫(0,∞)sinc(x)dx=1/2
jinc(0)=π/4,∫(0,∞)jinc(x)dx=1
です.
ガウス関数のフーリエ変換はまた正規分布になりますが,シンク関数は矩形分布に,平方シンク関数は三角分布にフーリエ変換されます.
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