■18世紀における微積分(その2)

 三角関数の有理関数の積分はt=tan(θ/2)とおくと有理関数の積分に帰着できることはほとんどの教科書に書かれている.数学の学習では「この場合にはこうする」といった技法を習うが「なぜそうすればうまくいくのか」といった基本原理にまでは言及されていないのが普通である.もう1歩掘り下げると次の事実がある.   (一松信「基本原理を理解すること」より抜粋改編)

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【1】2次曲線のパラメータ表示例

 原点を中心とする半径1の円の円周上の点を(x,y)とすれば,第3の変数θを媒介として,x=cosθ,y=sinθと表されます.θは(x,y)と(0,0),θ/2は(x,y)と(−1,0)を結ぶ直線とx軸とのなす角を表しています.

 さらにt=tan(θ/2)とすると

  tan(θ/2)=sinθ/(1+cosθ)=(1−cosθ)/sinθ,

  cosθ=(1−t^2)/(1+t^2),

  sinθ=2t/(1+t^2),

  dθ/dt=2/(1+t^2)

より,

  x=±(1−t^2)/(1+t^2),

  y=(2t)/(1+t^2)   (−1≦t≦1)

と表すことができます.

 単位円上のすべての有理点(座標x,yが有理数であるような点)は,x=±(1−t^2)/(1+t^2),y=(2t)/(1+t^2)とx=−1,y=0です.

 このように,円の有理点全体は1つの変数tによって一意化できますが,円ばかりではなく,現在では2次曲線に1つでも有理点があると実は無限に有理点があることがわかっています.2次曲線は有理点を無限のもつか,1つももたないかのどちらかです.実際,t=m/nを代入して展開すると,

  x=±(m^2−n^2)/(m^2+n^2),

  y=2mn/(m^2+n^2)

となります.

 したがって,ピタゴラス数(a^2+b^2=c^2:a,b,cは整数)の組み合わせは,a=m^2−n^2,b=2mn,c=m^2+n^2によって,すべて導き出せることがおわかり頂けることでしょう.

 なお,三角関数の有理関数の積分はt=tan(θ/2)とおくと有理関数の積分に帰着できることはほとんどの教科書に書かれていますが,うまくtanθ,cos^2θ,sin^2θだけの関数に書き表すことができる場合には,tanθ=tとおくことによって三角関数の有理関数の積分計算は格段と簡単になります.この場合,cos^2θ=1/(1+t^2),sin^2θ=t^2/(1+t^2)となりますから,tan(θ/2)=tとおいた場合に比べ,次数が約半分の有理関数になります.

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【2】基本原理

 上の例では単位円x^2+y^2=1という2次曲線について,P0(−1,0)をとったが,さらにもう1歩掘り下げると次の事実(基本原理)がある.

[基本原理]2次曲線Γ上に定点P0を定める.Γ上の任意の点Pに半直線P0Pを対応させ(P0自身にはそこでの接線を対応させ),P0Pが正の実軸となす傾き(偏角の正接)をtとすると,Γを表す2次式の座標(x,y)はtの有理関数として表すことができる.

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【3】双曲線の場合

 双曲線y=√(x^2+1)に対してはP0を(0,1)にとれは不定積分

  ∫√(x^2+1)dx

は計算できるが,その計算はかなり複雑になる.それよりもP0が無限遠点二いったときの極限として,点Pを直線族x+y=tとの交点として表現すると以下のように簡単に計算できる.

  x=(t−1/t)/2,y=(t+1/t)/2,

  dx/dt=(t^2+1)/2t^2

  ∫√(x^2+1)dx=∫(t^2+1)^2/4t^3dt

 =∫{(t+1/t^3)/4+1/2t}dt

 =(t^2−1/t^2)/8+1/2log|t|+C

 =1/2{x√(x^2+1)+log(x+√(x^2+1))}+C

 これはなぜ,t=√(x^2+1)ではなく,t=x+√(x^2+1)と変数変換すべきか,その根拠を説明している.

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