■ポール・エルデス・離散数学の魅力(その49)
1852年,チェビシェフは十分大きなxについて
π(x)/(x/logx)
が0.92129と1.10555の間にあるという結果を得ています.
c1x/logx<π(x)<c2x/logx
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チェビシェフの定理は,大きな数の場合,この近似値の誤差は11%以下であるというものですが,もちろん現実にはずっと小さいわけです.
この漸近評価を得るためにチェビシェフは,オイラーによって1740年に考案されたゼータ関数(のちにリーマンがこの名前を付けた)を利用しました.また,この結果を得るのには非常に巧みな組み合わせ的推論が用いられているのですが,漸近評価の一部は不等式
2^2n/(2n+1)≦2nCn≦2^2n
に基づいています.上界はΣ2nCk=2^2nより明らか,下界は2n+1個の二項係数の中で2nCnが最大であり,平均が2^2n/(2n+1)であることから証明されます.この評価は簡単ではありますが,かなり正確です.
2nCnについては,さらに正確な評価を与える
2^2n/(2√n)≦2nCn≦2^2n/√2n
などの評価式もしばしば使われます.また,スターリングの公式を使うとより精密な結果
2nCn〜2^(2n)/√(πn)
が得られますが,この評価は数論,素数定理などとも関係しています.
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以下の不等式も,本質的にチェビシェフの議論に従う.
チェビシェフ第1関数
θ(x)=Σlogp (x以下の素数の自然対数の和)
チェビシェフ第2関数
φ(x)=Σθ(x^1/n) (x以下の素数のベキ乗があるごとにlogpを加えた総和)
T(x)=Σlogn=log(x!)
α(x)<φ(x)<φ(x/6)+α(x)
チェビシェフ第1関数・第2関数はπ(x)に比べて複雑のように見えるが,数学的には素数の性質を暴き出すために好都合になっている。
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チェビシェフの不等式
A2x≦φ(x)≦A1x
A3x≦θ(x)≦A1x
は
φ(x)≦Σ{φ(x/6^j)−φ(x/6^j+1)}<Σα(x/6^j)
≦0.9353(1+1/6+1/6^2+・・・)x≦1.1224x
A1=1.1224
同様に,
A2=0.9072,A3=0.73
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π(x)〜θ(x)/logx
π(x)〜φ(x)/logx
チェビシェフの漸近評価では
c1=0.92129,c2=1.10555
であるが,シルベスターはチェビシェフの使った関数よりも複雑な関数を使うことによって
c1=0.956,c2=1.045 (誤差は5%以下)
A1=1.10667,A2=0.9926
というよい値を得ています.
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