■ヤング図形とフック長公式(その22)
(その21)ではムーアヘッド平均を扱ったが,ムーアヘッド平均は算術平均と幾何平均の一般化になっていた.たとえば,算術平均・幾何平均の不等式
(a^2+b^2)/2≧ab
の左辺も右辺も
(a^xb^y+a^yb^x)/2
の特別な場合になっていることに気づかれたであろう.
x≧y≧0として(x,y)を指標と呼ぶことにするが,左辺は指標(x,y)=(2,0),右辺は指標(x,y)=(1,1)である.また,いずれにおいてもx+y=2という条件が満たされている.
不等式
(a^2+b^2)/2≧ab
を
M(2,0)≧M(1,1)
と書くことにするが,M(x,y)をムーアヘッド平均と呼ぶことにする.ムーアヘッド平均は算術平均と幾何平均の一般化である.
ベキ平均を
Mr=((a^r+b^r)/2)^(1/r)
と定義すると,
M1=(a+b)/2 → 算術平均A
M-1=2/(1/x+1/y)=2xy/(x+y) → 調和平均H
M2=((a^2+b^2)/2)^(1/2) → ユークリッド平均E
となる.
ベキ平均では(ab)^(1/2) → 幾何平均Gを定義できないという不便さがあるが,これも平均の重要な一般化である(H<G<A<E).今回のコラムでは,フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式を取り扱うことにする.
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【1】フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式
a^2+b^2−2ab
a^3+b^3+c^3−3abc
a^4+b^4+c^4+d^4−4abcd
さらに高次元化した
a^5+b^5+c^5+d^5+e^5−5abcde
a^6+b^6+c^6+d^6+e^6+f^6−6abcdef
などが,本質的に算術平均A(a^n)と幾何平均G(a^n)の差となっている.
ここで,受験参考書に必ず書いてある
a^3+b^3+c^3−3abc
=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2−ab−bc−ca)
=(a+b+c){(a−b)^2+(b−c)^2+(c−a)^2}/2
という公式を思い出してもらいたい.
これらの2次,3次の同次式
a^2+b^2−2ab=(a−b)^2
a^3+b^3+c^3−3abc=(a+b+c){(a−b)^2+(b−c)^2+(c−a)^2}/2
を並べて書くと,両者とも右辺には多項式Pkを重みとする平方の和の形
ΣPk(ai−aj)^2
が現れていることに気づかされるだろう.前者ではPk=1,後者ではPk=(a+b+c)/2となっているというわけである.
a^4+b^4+c^4+d^4−4abcd
は因数分解不可能であることがわかっていて,そのため,受験参考書には決して登場しないのであるが,それではせめて多項式の平方の和の形に表せないだろうか.
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実は,算術平均A(a^n)と幾何平均G(a^n)については,フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式
n{A(a^n)−G(a^n)}
=1/2(n−1)!{Σ(a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)+Σ(a1^(n-2)−a2^(n-2))(a1−a2)a3+Σ(a1^(n-3)−a2^(n-3))(a1−a2)a3a4+・・・}
の成り立つことが知られている.右辺はa1,a2,・・・,anを置換して得られる値の総和である.
また,このことから
A(a^n)≧G(a^n)
の別証明が得られる.
Σ(a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)+Σ(a1^(n-2)−a2^(n-2))(a1−a2)a3+Σ(a1^(n-3)−a2^(n-3))(a1−a2)a3a4+・・・
=ΣP1(a1−a2)^2+ΣP2(a1−a2)^2+ΣP3(a1−a2)^2+・・・
=Σ(P1+P2+P3+・・・)(a1−a2)^2
=ΣP0(a1−a2)^2≧0
さらに,
a1=x1^2,a2=x2^2,・・・
とおくと,
(a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)
=(x1^2(n-1)−x2^2(n-1))(x1^2−x2^2)
=(x1^2−x2^2)^2(x1^2(n-2)+x1^2(n-3)x2^2+・・・+x2^2(n-2))
となり,各項が(x1^2−x2^2)x1^(n-2)の平方の形の多項式となっていることがわかる.このことから,多項式P1,P2,・・・それ自体も平方の和となることが理解される.
そのことを具体的に書いてみると
(a^2+b^2)/2−ab=1/2(a−b)^2≧0
(a^6+b^6+c^6)/3−a^2b^2c^2=1/6(a^2+b^2+c^2){(a^2−b^2)^2+(b^2−c^2)^2+(c^2−a^2)^2}≧0
である.右辺が平方式の和に書き直せるので非負になることは明らかであろう.
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