■ヤング図形とフック長公式(その21)

 たとえば,算術平均・幾何平均の不等式

  (a^3+b^3+c^3)/3≧abc

の左辺も右辺も

  (a^xb^yc^z+a^xb^zc^y+a^yb^zc^x+a^yb^xc^z+a^zb^xc^y+a^zb^yc^x)/6

の特別な場合になっていることに気づかされるであろう.そこで,・・・

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【1】ムーアヘッド平均(算術平均と幾何平均の一般化)

 x≧y≧z≧0として(x,y,z)を指標と呼ぶことにするが,左辺は指標(x,y,z)=(3,0,0),右辺は指標(x,y,z)=(1,1,1)である.また,いずれにおいてもx+y+z=3という条件が満たされている.

 不等式

  (a^3+b^3+c^3)/3≧abc

  M(3,0,0)≧M(1,1,1)

と書くことにするが,M(x,y,z)をムーアヘッド平均と呼ぶことにする.ムーアヘッド平均は算術平均と幾何平均の一般化である.

 次に

  M(2,1,0)=(a^2b+a^2c+ac^2+ab^2+b^2c+bc^2)/6

について考えてみるが,実は

  M(3,0,0)≧M(2,1,0)≧M(1,1,1)

が成立する.そして,このことから

  M(3,0,0)≧M(1,1,1)

よりも

  M(3,0,0)≧M(2,1,0),

  M(2,1,0)≧M(1,1,1)

の方が本質的な性質であることがわかる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 さらに

  M(x,y,z)≧M(u,v,w)

が成り立つための必要十分条件は,指標

  (x,y,z)>(u,v,w)

が成り立つことである(ム−アヘッドの定理).

 指標(x,y,z)>(u,v,w)の意味については次節で説明することにするが,ムーアヘッド平均に関する不等式は,算術平均・幾何平均の不等式の一般化であり,対応する指標に関する不等式に帰着されるのである.(ム−アヘッドの定理の条件の必要性の証明はわかるが,十分性の証明は込み入っている).

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【2】分割とムーアヘッドの定理

 非負整数の非増加列,すなわち,

  λ=(λ1,λ2,・・・,λn)

  λ1≧λ2≧・・・≧λn>0

なる整数列を分割(partition)という.

 ここでは

  λ1≧λ2≧・・・≧λn≧0,n=3

の場合を扱うことになるので注意してほしい.(≧−1とすることができれば調和平均も扱えるのだが,・・・)

 分割はλ=(λ1,λ2,・・・,λn)でパラメトライズされるわけであるが,分割λに対して

  |λ|=Σλi

を分割λのサイズ,λiが零でないiの総数をl(λ)と書いて分割λの長さという.前節の例でいえばx+y+z=3が分割のサイズである.

 変数の数が3の場合,サイズ1の分割の集合は

  S1={(1,0,0)}

サイズ2の分割の集合は

  S2={(2,0,0),(1,1,0)}

サイズ3の分割の集合は

  S3={(3,0,0),(2,1,0),(1,1,1)}

である.

 分割の集合を求めるのは難しいことではなく,たとえば,変数の数が3の場合,サイズ6の分割の集合は

  S6={(6,0,0),(5,1,0),(4,2,0),(4,1,1),(3,3,0),(3,2,1),(2,2,2)}

サイズ7の分割の集合は

  S7={(7,0,0),(6,1,0),(5,2,0),(5,1,1),(4,3,0),(4,2,1),(3,3,1),(3,2,2)}

サイズ8の分割の集合は

  S8={(8,0,0),(7,1,0),(6,2,0),(6,1,1),(5,3,0),(5,2,1),(4,4,0),(4,3,1),(4,2,2),(3,3,2)}

となる.

 次に,分割の集合に自然な順序を定義したい.λ≧μとは

  |λ|=|μ|

かつすべてのiに対して

  λ1+・・・+λi≧μ1+・・・+μi

が成り立つこととする(i=1〜n).

 すると

  (2)>(1^2)

  (3)>(21)>(1^3)

  (4)>(31)>(2^2)>(21^2)>(1^4)

  (5)>(41)>(32)>(31^2)>(2^21)>(21^3)>(1^5)

  (6)>(51)>(42)>(41^2)>(321)>(31^3)>(2^21^2)>(21^4)>(1^6)

   >(3^2)> >(2^3)>

となって|λ|≦5の場合には全順序(辞書式順序)であるが,|λ|≧6の場合は半順序となることが理解される.(λ1≧λ2≧・・・≧λn≧0として,(λ1,λ2,・・・,λn)のことを(λ1λ2・・・λn),(1111)のことを(1^4)と表している.)

 3変数の場合に限ると,

  (2)>(1^2)

  (3)>(21)>(1^3)

  (4)>(31)>(2^2)>(21^2)

  (5)>(41)>(32)>(31^2)>(2^21)

  (6)>(51)>(42)>(41^2)>(321)>(2^3)

   >(3^2)>

となって,指標(4,1,1)と(3,3,0)の間には大小関係がないということになる.

 3変数6次多項式

  a^4bc+abc^4+ab^4c

  a^3b^3+a^3c^3+b^3c^3

については大小関係が成立しないものが存在するのである.

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