■ヤング図形とフック長公式(その15)

【4】シューア対称多項式

 

 いくつかの対称関数を定義したが,ここでは最も重要な対称多項式であるシューア対称多項式を導入する.

 

 シューア対称多項式sλ(x)は,n個の変数x=(x1,x2,・・・,xn)が与えられたとき,l(λ)≦nなる分割に対して定義されるn変数対称多項式で,次のような行列式の比として定義される.

  sλ(x)=det(xi^(λj+n-j))/det(xi^(n-j))

 

det(xi^(n-j))= |x1^(n-1) x1^(n-2)・・・x1^0|

           |x2^(n-1) x2^(n-2)・・・x2^0|

           |・・・・・・・・・・・・・・・|

           |xn^(n-1) xn^(n-2)・・・xn^0|

 

det(xi^(λj+n-j))= |x1^(λ1+n-1) x1^(λ2+n-2)・・・x1^λn|

             |x2^(λ1+n-1) x2^(λ2+n-2)・・・x2^λn|

             |・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・|

             |xn^(λ1+n-1) xn^(λ2+n-2)・・・xn^λn|

 

 分母はファンデルモンド行列式だから,差積Π(xi−xj)に等しい.

  det(xi^(n-j))=Π(xi−xj)

また,分子はxの交代式なので,差積で割り切れて全体として対称多項式になる.したがって,sλ(x)は|λ|=Σλi次の斉次対称式となる.l(λ)>nに対してはsλ=0と約束する.

 

 n=3の場合,定義にしたがって計算すれば

  s(1)(x)=x1+x2+x3

  s(1^2)(x)=x1x2+x1x3+x2x3

  s(21)(x)=(x1+x2)(x1+x3)(x2+x3)

などが得られる.

 

 また,シューア対称多項式の内積の直交性

  〈sλ,sμ〉=δ   (クロネッカーのδ)

は,シューア対称多項式が直交多項式の理論の枠内で捉えることができることを示している.

 

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 sλ(x)はヤング図形に対応する母関数であって,単項式の非負整数係数の1次結合として表せることが知られている.n≧3とすれば

  s(3)(x)=m(3)(x)+m(21)(x)+m(1^3)(x)

  s(21)(x)=m(21)(x)+2m(1^3)(x)

  s(1^3)(x)=m(1^3)(x)

 

 一般に,

  sλ(x)=mλ(x)+ΣKmμ(x)   (μ<λ)

  sλ(x)=mλ(x)+(それより低い順序のモノミアル)

において,Kは非負整数という形になっている.このことから一般のsλ(x)がn変数対称多項式のなす空間の基底であり,任意の対称多項式がこれらの1次結合で一意に表されることがいえるのである.

 

 次に,n変数のシューア多項式sλをベキ和多項式prで表してみよう.すると

  s(1)=p1

  s(2)=1/2p2+1/2p1^2

  s(1^2)=−1/2p2+1/2p1^2

  s(3)=1/3p3+1/2p2p1+1/6p1^3

  s(21)=−1/3p3+1/3p1^3

  s(1^3)=1/3p3−1/2p2p1+1/6p1^3

などとなる.これらの公式はシューア多項式を「変数の数nに依存しない形に表現できる」とても便利なものになっていて,n→∞のときの無限個の変数の極限を考えたシューア多項式すなわちシューア関数の定義に用いることができる.

 

 同様に,モノミアル対称多項式mλをベキ和多項式prで表せば(とりあえず3次まで),

  m(1)=p1

  m(2)=p2

  m(1^2)=−1/2p2+1/2p1^2

  m(3)=p3

  m(21)=−p3+p2p1

  m(1^3)=1/3p3−1/2p2p1+1/6p1^3

この両辺は無限変数の多項式でも成り立つことに注意されたい.対称多項式の無限変数版は対称関数と呼ばれ,変数の数nに依存しない形が望まれるのである.

 

 シューア関数は組合せ論と表現論の関わりにおいて別格の扱いを受けているばかりではなく,数理物理の諸問題などに頻繁に現れる.たとえば,自由電子系に対する任意の励起状態はシューア対称多項式によって記述可能である.

 

 以下に述べるジャック多項式,マクドナルド多項式はシューア関数の変形であり,内積のβ変形がジャック多項式,(q,t)変形がマクドナルド多項式となる.

 

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