■ブルン・ミンコフスキーの不等式(その3)

 ミンコフスキーは数論家として出発しましたが,研究を進めるにしたがって次第に幾何学に興味を惹かれるようになり,幾何学的方法を用いて数論を研究する「数の幾何学」と呼ばれる新しい数学分野を打ち立てました.

 格子点定理が数の幾何学の基礎となっているのですが,格子点定理は次のように述べることができます.

 「平面(n次元空間)上の任意の単位格子において,1つの格子点を中心として1辺の長さが2の正方形(面積4の平行四辺形,面積2^nの中心対称な凸体)を任意の向きにおいてみると,内部あるいは境界上にもうひとつの格子点が必ず存在する.」

 今回のコラムでは,ミンコフスキーの格子点定理の一般化やこの定理の条件を変えたバリエーションのいくつかを紹介します.

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【1】一般の格子に対するミンコフスキーの格子点定理

 n本のベクトルで張られる平行2n面体の体積

  {λ1x1+λ2x2+・・・+λnxn:0≦λi≦1}

について述べておきます.

 写像:y=Axによって,単位直方体は平行2n面体に写像されるものとすると,この写像のヤコビアンはJ=|A|となります.また,グラミアン

  G=|A|^2

が成立しますから,平行2n面体のn次元体積は

  |G|^(1/2)=|A|

で与えられます.

 したがって,Λを体積Δをもつ格子とするとミンコフスキーの定理から,

  (中心対称凸体の体積)>2^nΔ

ならば,内部あるいは境界上に格子点が必ず存在することになります.

 単位球の体積:B^n=π^n/2/Γ(n/2+1),x1^2+・・・+xn^2≦λ^2の体積はλ^nB^nですから,与えられた判別式をもつn元2次形式の最小値に対する上界Mが

  M<An|A|^1/n   (An=4(Γ(n/2+1))^2/n/π)

で与えられることが証明されます.この結果はエルミートのものより精密です.

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【2】マーラーの不等式

 立方体領域:K={|x1|≦1,・・・,|xn|≦1}の体積は2^n,また,正八面体領域:K~={|x1|+・・・+|xn|≦1}の体積は2^n/n!で与えられます.両者は極双対集合です.

 一般に中心対称な凸体(もっと一般的に0が重心であるような凸体)Kに対して,

  2^n/(n!)^2≦vol(K)≦2^n

はミンコフスキーの第2定理と呼ばれています.

 また,Kとその極双対集合K~に対して,マーラーの不等式

  4^n/(n!)^2≦vol(K)vol(K~)≦4^n

成立します.

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【3】ブラシュケ・サンターロの不等式

 ブラシュケ・サンターロの不等式は

  c1^n/n!≦vol(K)vol(K~)≦c2^n/n!

というものです.

 前節のマーラーの不等式は最良のものではなく,定理の上限については

  vol(K)vol(K~)≦vol(B^n)^2=π^n/Γ^2(n/2+1)が成り立ちます.下限については

  4^n/n!≦vol(K)vol(K~)

が予想されています(マーラー予想).

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【4】凸体内の格子点の評価

 ミンコフスキーの定理により,凸体内には非ゼロの格子点が存在することがわかったが,実際どれほどの格子点数を含んでいるのだろうか?

 Gillet-Souleによる評価式では

  6^-n≦#(K∩Λ)/#(K~∩Λ)vol(K)≦(3/2)^n(n!)^2

が成り立つ.

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