■ヤング図形とフック長公式(その8)
対称式に引き続き、分数式の場合も見てみたい。
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【3】オイラーの恒等式
高校数学では,分数式の計算
F=1/(a−b)(c−a)+1/(b−c)(a−b)+1/(c−a)(b−c)
とか
F=a^2/(a−b)(c−a)+b^2/(b−c)(a−b)+c^2/(c−a)(b−c)
を簡単にせよという演習問題に出会ったことがあるはずである.
F={a^k(b−c)+b^k(c−a)+c^k(a−b)}/(a−b)(b−c)(c−a)
として,分子をFkとおくと
F0=(b−c)+(c−a)+(a−b)=0
F1=a(b−c)+b(c−a)+c(a−b)=0
F2=a^2(c−b)+b^2(a−c)+c^2(b−a)=−(a−b)(b−c)(c−a)
F3=a^3(b−c)+b^3(c−a)+c^3(a−b)=−(a−b)(b−c)(c−a)(a+b+c)
よって,k=0,1,2,3の場合,順に
F=0,0,−1,−(a+b+c)
となる.
Fkは交代式で,交代式は差積と対称式Aの積で表されるという性質があるから
Fk=A(a−b)(b−c)(c−a)
ここで,分母(a−b)(b−c)(c−a)は3次交代式,分子Fkはk+1次交代式であるから,Fはk−2次対称式となる.このことからk=0,1のときF=0,k=2のときFは定数となることがわかる.
k=2の場合,F=−1
k=3の場合,F=−(a+b+c)
k=4の場合,F=−(a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca)
k=5の場合,F=−(a^3+b^3+c^3+a^2b+ab^2+a^2c+ac^2+b^2c+bc^2+abc)
また,対称式の基本定理より,n変数のどんな対称式も基本対称式を用いて表すことができる.3変数の場合の基本対称式
σ1=a+b+c
σ2=ab+bc+ca
σ3=abc
を用いて対称式Pを表してみることにしよう.
k=3の場合,F=−(a+b+c)=−σ1
k=4の場合,F=−(a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca)=−σ1^2+σ2
k=5の場合,F=−(a^3+b^3+c^3+a^2b+ab^2+a^2c+ac^2+b^2c+bc^2+abc)=−σ1^3+2σ1σ2−σ3
しかし,対称式の基本定理など代数学の知識を駆使してもあまり面白い結果になりそうもない.
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1/(a−b)(c−a)+1/(b−c)(a−b)+1/(c−a)(b−c)=0
(b+c)/(a−b)(c−a)+(c+a)/(a−b)(b−c)+(a+b)/(b−c)(c−a)=0
bc/(a−b)(c−a)+ca/(a−b)(b−c)+ab/(b−c)(c−a)=−1
などの一連の式は「オイラーの恒等式」と呼ばれるものだそうである.単なる分数式の練習問題ではなく,由緒ある式なのである.
しかし,オイラーの恒等式は算術平均と幾何平均の不等式(←フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式)や巡回行列式のように2次式の和の形
F=ΣkP^2
にも表せそうもない.これでは面白味に欠けるが「オイラーの恒等式」に何か面白い性質は隠れていないのだろうか? オイラーの恒等式は巡回行列式でなく,ファンデルモンドの行列式と近い関係にあることは推測できるのだが,もう一度じっくりみてみることにしよう.
k=3のとき,F=−(a+b+c)
k=4のとき,F=−(a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca)
k=5のとき,F=−(a^3+b^3+c^3+a^2b+ab^2+a^2c+ac^2+b^2c+bc^2+abc)
はk−2次の同次項(係数1)がすべて出現している組合せであることに気づかれたであろう.
その項数は
3Hk-2=kCk-2=k(k−1)/2
すなわち,k=3(項数3),k=4(項数6),k=5(項数10)と計算される.そして,k=6の場合は
F=−(a^4+a^3b+a^3c+a^2b^2+a^2bc+a^2c^2+ab^3+ab^2c+abc^2+ac^3+b^4+b^3c+b^2c^2+bc^3+c^4)
(項数15)になるものと推測されるのである.
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