■掛谷予想(その21)
NaClではアニオンとカチオンが交互に並び,格子面が電気的に中性になるが,CsClでは電気的中性条件を満たさない.その対応策は如何に・・・・・?
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面心立方格子や対心立方格子では,直交座標を基本としている.直交座標軸は空間中の点の位置を表すのに最も取り扱いが簡単である.しかし,3つベクトルa↑,b↑,c↑の選び方は一義的には決まらず,いろいろな選び方がある.そこで,3つのベクトルをそれぞれの構造の単純並進ベクトルと呼ばれるものに採ってみた.そうすると,対心立方格子ではa=b=c,α=β=γ=109.49°,面心立方格子ではa=b=c,α=β=γ=60°の菱形体格子に変換されることになる.
これによって,CsClでは,格子点に交互にカチオンとアニオンが並ぶ菱形体格子が基本単位になり,これを各軸方向に2倍して8個の集まりを考えると,NaCl型の単位格子と同様のイオン配置をした大きな菱形体格子ができあがる.非直交座標軸に変換されるのだが,この菱形体格子ではa=b=c,α=β=γ=109.49°であることに注意して計算してみると,実際にマーデルング定数は収束値(1.76267)に向かった.
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菱面体状に,加算される細胞数は
8個→64個→216個→8d^3→・・・となる.
a)CsCl結晶の場合
d=1 → α=1.7910 (細胞数:8)
d=2 → α=1.7630 (細胞数:64)
d=3 → α=1.7627 (細胞数:216)
d=4 → α=1.7627 (細胞数:512)
d=5 → α=1.7627 (細胞数:1000)
d=6 → α=1.7627 (細胞数:1728)
d=7 → α=1.7627 (細胞数:2744)
d=8 → α=1.7628 (細胞数:4096)
このように,非直交座標に変換して空間を切り直すとあっという間に正しい値:α=1.76276に収束した.CsClの場合,細胞全体としては中性であっても,格子面が中性条件を満たさないことから,直交座標を用いる限り,この点は解消されないし正しい値も求まらない.
直交ベクトルはわかりやすいし,便利なものであるから慣用的に用いられているのであろうが,CsClの場合は確かに直交座標があだとなってしまう.ベクトルの選び方・格子変換が収束に対してこれほど有用だとは思いもよらず,驚異的でさえあった.
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