■掛谷予想(その13)

 話を簡単にするため1次元の結晶について考えてみよう.1次元なんてつまらないと感じるかもしれないが,何事もまずは簡単な例からというのは科学的な態度であり,大きな御利益が得られる場合も少なくない.

 間隔Rで正負イオンが交互に1直線上に並んだ

  ・・・−Na+−Cl-−Na+−Cl-−Na+−Cl-−・・・

において,1つのNa+イオンに注目すると,第1近接は両隣にある2個のCl-イオンであり,第2近接はさらにその隣にある2個のNa+イオンである.1次元であっても原理的には同じであるから,以下同様に,

  U=-e^2/R*2[1-1/2+1/3-1/4+・・・]

が得られる.因子2は等距離のところに左右1個ずつ2つのイオンがあることを考慮している.

 ここで,括弧の中の和

  1/1−1/2+1/3−1/4+・・・

は調和級数

  1/1+1/2+1/3+1/4+・・・

の交代級数であり,メルカトールの定数とかグレゴリーの定数と呼ばれている定数である.

 この値は対数関数のマクローリン展開

  log(1+x)=x−1/2x2 +1/3x3 −1/4x4 +・・・

においてx=1とおくとlog2に収束するから,最終的には

  U=-e^2/R*2log2

より,1次元の鎖に対するマーデルング定数は

  α=2log2=1.386

である.

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