■円盤の問題(その8)
単振り子の振動周期や楕円の弧長を求める問題を考える場合,k[0,1]をパラメータとする不完全積分
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)
F(z)=∫(0-Z)f(x)dx
が絡んできます.
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
K(k)=∫(0-1)f(x)dx
を第1種完全楕円積分,
f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)
E(k)=∫(0-1)f(x)dx
を第2種完全楕円積分と呼びます.
これらの不定積分は初等関数では表せませんが,たとえば,第1種完全楕円積分は
K(k)=π/2{1+(1/2k)^2+(3/8k^2)^2+(5/16k^3)^2+・・・}
とベキ級数展開できます.完全楕円積分を用いると,糸の長さlの単振り子の周期は
T=4√(l/g)K(k)
したがって,振幅が小さいとき
T〜2π√(l/g)
と表すことができます.
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【1】振り子の等時性とサイクロイド
ガリレオ・ガリレイは16世紀の終わりにピサの斜塔で有名な落体の実験を試みましたが,さらに大聖堂のシャンデリアの動きから振子の等時性を発見しています.
糸の長さlに質量mの錘のついた振り子の運動方程式は,
mldθ^2/d^2t=−mgsinθ
で表されますが,
sinθ=θ−1/3!θ^3+1/5!θ^5−・・・
より,小さな振幅に限るとsinθ≒θとしてよいので
mldθ^2/d^2t=−mgθ
となります.この方程式は線形なので解くことができ,周期
T=2π√l/g
が得られます.したがって,周期はl=25cmで約1秒,l=1mで約2秒となり,振幅には拠りません.
これが有名な「振り子の等時性」ですが,この現象は振幅が小さい場合に限って成立します.しかし,振幅が大きいと,復元力はsinθに比例し,積分は楕円積分となります.その場合の周期として
T=4√(l/g)K(k)
が得られますが,この式は振幅が小さいとき
T〜2π√(l/g)
と近似されます.
現実には振幅はそれ程小さくなく,無視できない差が生じます.楕円積分が登場するため,線形性はくずれ非線形になるからです.しかし,サイクロイドを用いると,周期が振幅に依存しない正確に等時性をもった振り子を作ることができます.振幅角が大きいとき振子の長さを短くすればよいのですが,ホイヘンスはサイクロイドが等時曲線(所要時間が質点の位置に関係なく一定である曲線)であることを発見し,等時性からのずれを補正するためにサイクロイドの縮閉線を利用しました.サイクロイドの縮閉線にはもとのサイクロイドと合同なサイクロイドになるという性質があるからです.
サイクロイドにはいくつかの興味深い特性があります.
[1]等時曲線
ホイヘンスはサイクロイドが等時曲線であることを発見しました.等時曲線であるサイクロイドを用いると,周期が振幅に依存しない正確に等時性をもった振り子が作れます.サイクロイド振り子の周期は,回転円の半径をrとすると
T=4π√r/g
です.
[2]最速降下線
1696年,ベルヌーイによってヨーロッパ中の優れた数学者に対して,重力だけの作用の下で滑らかな曲線に沿って運動するとき,到達時間が最小になるような曲線は何か?という「最速降下線」の問題が提出されました.ニュートンは直ちにこれを解き,匿名で解答を送ったが,ベルヌーイはその解法を見てすぐに解答者を知ったという逸話は余りにも有名です.その答えがサイクロイドだったのです.そして,重力場において2点間を滑りおりる最短時間の曲線の問題を解決するために工夫された方法が,のちに変分学に発展しました.
サイクロイドはそもそもガリレイによって発見され,ホイヘンスによって振子時計の設計に使われ,そしてパスカルの積分法の研究にも貢献しています.サイクロイド弧が囲む面積は3πr^2(回転円の面積の3倍に等しい),弧長は8r(回転円に外接する正方形の周に等しい)になります.
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