■多くの約数をもつ合成数(その5)

 (その3)の補足である.

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【1】ラマヌジャン予想

 自然数nに対して,σk(n)を正の約数のk乗和

  σk(n)=Σd^k

とする.たとえば,σ3(6)=1^3+2^3+3^3+6^6=252

 σk(n)を一般化することはできないか? たとえば,重さkのアイゼンシュタイン級数のフーリエ係数には,σk-1(n)が現れる→[補].ラマヌジャン関数はこの問いかけから出発している.

 ラマヌジャンは

  τ(n)=O(n^11/2+ε)

と予想した.ラマヌジャン自身はτ(n)=O(n^7)であることを証明したが,ハーディはτ(n)=O(n^6),ランキンはτ(n)=O(n^29/5)であることを証明した.

 1974年,ドリーニュが,ラマヌジャン予想

  τ(n)=O(n^11/2+ε)

を証明してみせた.この業績により彼にはフィールズ賞が与えられている.

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【2】ロジャース・ラマヌジャンの恒等式

 たとえば,

[1]10を分割するのに分割を構成する数字の差が2以上になるという制限を設けると

  8+2=10

  6+3+1=10

  10=10

  9+1=10

  7+3=10

  6+4=10の全部で6通り

[2]10を分割するのに分割数を5m+1または5m+4(すなわち,1,4,6,9)に制限したらどうなるだろうか?

  6+4=10

  4+1+1+1+1+1+1=10

  1+1+1+1+1+1+1+1+1+1=10

  9+1=10

  6+1+1+1+1=10

  4+4+1+1=10の全部で6通り

[1]=[2]というのが,ロジャース・ラマヌジャンの恒等式である.

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[補]アイゼンシュタイン級数

 SL(2,Z)群上,最も単純な(基本的・古典的)保型形式は重さkのアイゼンシュタイン級数

  Ek=1/2Σ1/(mz+n)^k

    m,nは互いに素,kは整数4,6,8,・・・(4以上の偶数)

です.すなわち,アイゼンシュタイン級数は変換公式

  Ek(az+b/cz+d)=(cz+d)^kEk(z)

    c,dは互いに素,ad−bc=1

を満たすというわけです.

 保型性の定義から

  Ek(z+1)=Ek(z)

  Ek(-1/z)=z^kEk(z)

はすぐわかりますが,前者は周期性,後者は双対性と理解することができます.

  Ek(z+1)=Ek(z)    (周期性)

  Ek(-1/z)=z^kEk(z)  (双対性)

 この保型性の定義は周期性f(x+1)=f(x)を含むので,任意の保型形式はq=exp(2πiz)とするフーリエ展開をもち,

  E4(z)=1+240Σσ3(n)q^n

  E6(z)=1−504Σσ5(n)q^n

  E8(z)=1+480Σσ7(n)q^n

  E10(z)=1−264Σσ9(n)q^n

  E12(z)=1+65520/691Σσ11(n)q^n

  E14(z)=1−24Σσ13(n)q^n

  ・・・・・・・・・・・・・・・・

     σk(n)はnの正の約数のk乗和

 ベルヌーイ数を用いると

  Ek(z)=1−2k/BkΣσk-1(n)q^n

また,ζ(1-k)=−Bk/kにより

  Ek(z)=1−2/ζ(1-k)Σσk-1(n)q^n

とも表されます.これらはすべてのσk(n)を教えてくれる母関数であり,それが保型性を示しているという事実が,モジュラー関数は深淵といわれる所以です.

 アイゼンシュタイン級数を用いると

  Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24

     =q-24q^2+252q^3-1472q^4+5483q^5+・・・

  Δ(z)=1/1732(E4(z)^3-E6(z)^2)

と表されます.

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