■予想と未解決問題(その8)

 医療関係者の中には数学の専門家も感心するほど数学に堪能な方もおられるが,そのような方は多くはない.医学部にはいるには数学科の人よりも入試のときの数学の成績はいいはずであるが,そこからあとはやらないから,医者の中で数学が好きだという人はほとんどいないことになる.

 医学は基本的に経験則であり,ロジカルではない.いかに多くの病気を知っているかがいい医者の条件である.医療に追われて,数学的な問題を吟味する暇もなく,よくわからないまま過ごすことのほうが普通であろう.

 一方,数学者はユークリッド空間がでてきたら,次は曲がった空間(多様体)ではどうなるか,曲がった空間でも正曲率(負曲率)のときはどうなるか,負曲率でも曲率が有界(非有界)の場合はどうなるか,知的好奇心の赴くまま考えを進めていくことが王道になっている.

 たとえば,エッシャーの絵のように長さ1の棒をもって円の境界の方に移動すると,長さ1の棒はこの空間の中にいる人にとってはずっと長さ1であるが,外にいる人から見ると境界に行けば行くほどだんだん短くなって最終的に点になってしまう.とどのつまり,多様体のn次元空間のファイバーバンドルが・・・みたいな話になるが,一般人には決して伝わらない.

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 私はプロの数学者ではないから,プロの数学者がやるような難しい問題をやれといわれてもできっこない.そこで,数学者に見捨てられたようなユークリッド幾何学の問題を好んで取り上げる.平面の問題を3次元にすると問題が難しくなるが,もっと次元の高い空間に広げて考える.たとえば10次元で,きれいな構造を探しだすのである.その際,すでにやられているかどうかはまったく気に懸けない.

 もちろん,フェルマーの最終定理やポアンカレ予想,リーマン予想など,これまで先人がアタックしても解けなかった問題ほど数学的に価値は高いが,この領域にだって先人達も苦心した難題はある.ただし,それらは忘れ去られた問題であって,オープン・プロブレムとして未解決問題集にリストアップもされていない.

 それを自分で発掘して解くしかないのである.逆にいえば,何をやっても未解決問題という状況にあり,theory builderであるとともにproblem solverであることを同時にこなすことが必要である.

 私はプロの数学者ではないが,たとえプロの数学者にとっても数学は時間がかかるものなので,私のまわりには数学者をやりたかったけれど諦めた人も少なくないが,時間がかかるところを堪え切れればあとは瑣末な問題にも興味を示す旺盛な好奇心と熱意だけでいける気がするのである.

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