■予想と未解決問題(その4)
2002年,ポアンカレ予想をロシア人数学者ペレルマンが解決したが,彼は賞金もフィールズ賞も辞退した.数学が新聞の一面を飾ったことは近年ではこの事件を除いて4回あるという.いずれも長い間の未解決問題の解決が報じられたときのことである.
(1)4色問題
(2)フェルマー予想
(3)ケプラー予想
(4)ポアンカレ予想
コンピュータ計算による網羅的な探求の例としては,以下の2つの有名な極値問題が解決されたことがあげられる.
(1)1998年,ヘールズはケプラーの球の詰め込み問題(1611年)が正しいことを示した.
(2)1976年,ハーケンとアッペルは4色問題(1852年)が正しいことを示した.
ケプラー予想とは,同じ大きさの球で空間を埋め尽くそうとする場合,面心立方充填と六方最密充填が最も高密度で,それより密度の高い球配置は存在しないというものである.アメリカ人数学者ヘールズは400年も前からのケプラー予想をコンピュータを用いて解決したのである.
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ガウスは球を規則正しく並べるという条件つきでケプラー予想が成り立つことを証明したのですが,不規則な並べ方まで含めてあらゆる場合に成り立つことはそう簡単には証明できないことでした.多くの場合,最密充填は整然とした格子によってもたらされるのですが,次元によっては最大接触数が一見ランダムな配置によって実現する場合もあるので問題は複雑なのです.たとえば1〜8次元では最大接吻数は格子上で起きるのですが,9次元では格子上での最大接吻数が272であるのに対して,不規則配置では306個の球が接触できるものが知られているのですから.
球の充填および接触数の問題は重要な未解決問題であるヒルベルトの第18問題として取り上げられているものですが,前者は大域的なものであり,後者は局所的な問題と考えられます.そして,半径の等しい球をn次元ユークリッド空間R^nに効率的に詰め込む問題のなかでも3次元空間の球の充填問題は「ケプラー問題」と呼ばれるものですが,この問題は1998年にトマス・ヘールズによって証明されました.
ともあれ,ヘールズの証明により「キャノンボール・パッキングよりも密度の高い3次元パッキングは存在しない」ことになるのですが,ランダムな配置まで含めても,面心立方格子が3次元空間における最密充填構造だというケプラー予想は,400年近く経ってやっと定理に昇格したことになります.
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面心立方格子が3次元空間における最密充填構造だという証明は,わずか数%の差であるにもかかわらず,また,何世紀にもわたる研究にもかかわらず未解決でした.苦々しいほど遅々たる歩みのケプラーの問題については,ロジャーズの名文句「ケプラー予想が正しいことは多くの数学者が信じ,すべての物理学者が知っている」すなわち,大半の数学者がまず間違いないだろうと考え,すべての物理学者が当たり前だと思っていた・・・そして欠けているのは証明だけという状況だったのです.
また,ヘールズはケプラー問題の証明のためにコンピュータの助けを借りなければなりませんでした.ヘールズによるケプラー問題の証明は,本質的に最適化問題であって,シンプレックス法を繰り返し利用しました.
ヘールズの証明は美しくエレガントな証明ではなく,しらみ潰しの方法に基づく力ずくの証明だったのですが,この状況は「四色問題」の場合と非常によく似ています.「四色問題」でコンピュータが初めて定理の証明に使われたとき数学界は大揺れに揺れたのですが,ヘールズのケプラー問題の証明はそれから20年以上経っていたこともあってか,それほどのスキャンダルにはなりませんでした.コンピュータによる証明が数学の進展にとって重要であることが多くの数学者にとって受け入れられるようになってきているためなのでしょう.
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