■シャボン玉の科学(その12)

[Q]3次元では泡細胞は14面体を中心とした分布をなし(面数の平均は<14),すべての泡細胞が14面以上の面をもつことは不可能である.

[A]3次元の空間が多面体により分割されるとき,3個の多面体の面が合して1本の稜線を形成し(内容的には同じことであるが)4本の稜線が1点に集まる.集合体から1個の多面体を分離して考えてみると,分割多面体の幾何学的性格で最も重要なものは,多面体のいずれの頂点にも3本の稜が集まるということである.そしてこのような多面体で空間を充填すれば,1個の頂点は4個の多面体によって共有され,そこには必ず4本の稜が集まる形になる.

 各分割多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれvi,ei,fiとする.

  vi−ei+fi=2

分割多面体では1個の頂点に3本の辺が集まり,また1本の辺は2個の頂点を結ぶことから,

  2ei=3vi

また,集合多面体の頂点,辺,面,胞の数をそれぞれV,E,F,Cとすると

  Σ(vi−ei+fi)=2C

 空間分割の面の数などは一義的には決まらず,統計的にしか扱えないので,各多面体の平均頂点数,辺数,面数v1,e1,f1とおくと

  v1C=Σvi,e1C=Σei,f1C=Σfi

  v1C−e1C+f1C=2C

f1≒14が証明したい事柄である.なお,V≠Σvi,E≠Σei,F≠Σfiであることを注意しておく.

 平均的多面体の各面をp角形,各頂点にq面が会するとし,各辺にr個の多面体(p,q)が集まるものとする.境界多面体(p,q)の平均的な頂点数,辺数,面数は(v1,e1,f1)となる.また,頂点に集まる辺の中点を結んでできる多面体はq角形が1つの辺にr面会した多面体(q,r)になっていて,その図形は(v2,e2,f2)で表されるものとする.

 3次元の握手定理は多彩になって

  f1C=2F,v1C=f2V,v2V=2E,e1C=rE=pF=e2V

あるが,仮定により

  q=r=3,v2=4,e2=6,f2=4

であるから

  f1C=2F,v1C=4V,4V=2E,e1C=3E=pF=6V

 これを

  v1C−e1C+f1C=2C

に代入すると

  (2−p/3)F=2C

  f1=2F/C=12/(6−p)

  v1=4V/C=4/(p/6−1)

  e1=6V/C=6/(p/6−1)

 ここで位相幾何学的証明でなく,計量的証明が必要になるのであるが,3次元空間充填であるためには,等式

  cos(π/q)=sin(π/p)sin(π/r)

が成り立たなくてはならない.q=r=3を代入すると

  sin(π/p)=cot(π/3)=√(1/3)

  p=5.1044・・・

  f1=13.398・・・<14

  v1=22.796・・・

となる.

 なお,

  V−E+F−C=0

を用いても,

  f1=2F/C=12/(6−p)

を導き出すことは可能である.厳密にいうと

  V−E+F−C=1

であるが,何千という小さな泡の集合体を想定して,非常に多くの多面体を統計的に扱うので右辺は0としてかまわない.しかし,V−E+F−C=1を用いればもっとf1≒14に近づくであろう.

 実験的研究から多面体の面数は14面,面の形は五角形がもっとも多いことが知られているが,理論的にもかなりよく符合する結果が得られ実験で得られた値を裏付ける1つの根拠を与えてくれるのである.

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