■シャボン玉の科学(その7)
【2】ポッケルス
レイリーの樟脳ダンスの実験以前に,ドイツではポッケルス嬢が水盆と仕切り板を使って,単分子膜の性質を調べる巧妙な実験法を考え出していました.
立花太郎「シャボン玉−その黒い膜の秘密−」中公新書によると,レイリーの樟脳ダンスの論文は1890年に発表されたものですが,翌年の1月レイリーはドイツからきた1通の手紙を受け取りました.差し出し人は未知の女性ポッケルス,内容は物理の大御所レイリーも気がつかなかった水面上の薄膜についての巧妙な実験と興味ある結果で,それはレイリーを大変驚かせるものでした.
驚くべきことに,この発明は病気がちな父母の看病と一家の生計に追われながら,なんと台所の片隅で有り合わせの道具を用いて,そして普段は専ら家事をしている女性によってなされたものです.
そのとき,レイリーはすこぶる面倒な方法をとっていたのですが,油膜の厚さを自由に調節できる彼女の実験をすぐに追試し,そして彼女の手紙を英訳して,ネイチャー誌の編集長に紹介,それは表面張力というタイトルで1891年同誌に掲載されました.
レイリー卿の助けで世に出された実験は,その手紙に先立つこと10年前に行われたもので,そのとき彼女はまだ20歳になるかならぬくらいの年齢でしたし,生来の理科好きではあっても専門の科学者でない彼女は,その結果を雑誌に発表することはありませんでした.
約10年が経過した後,物理を専門にしていた弟の勧めによって,彼女はレイリーに手紙を書いたのですが,界面化学で重要であり,現在も単分子膜の実験で必ず使われる表面膜用水槽天秤の原型は,ポッケルスによって,彼女が20歳のとき考案されたものなのです.
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