■二色問題(その8)
ここでは,三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えます.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまいますが,うまくいくと市松模様(ウロコ模様)のタイル張りができあがります.
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【1】市松モザイク模様
(問)Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?
(答)これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をαとおくと,頂点を一回りしたので,2aα=2π.ゆえに,
α=π/a ただし,aは2以上の自然数.
まったく,同様に残り2つの内角に対しても
β=π/b,γ=π/c
また,α+β+γ=πより
1/a+1/b+1/c=1
この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると
(3,3,3) → 正三角形
(4,4,2) → 直角二等辺三角形
(6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形
の3種類が得られる.
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以上の解は平面を鏡映三角形で埋めることをユークリッド面(放物的)で考えたものですが,リーマン面(楕円的),ロバチェフスキー面(双曲的)を問題にするならば,解は非常に異なるものになります.
α+β+γ>π,=π,<π
すなわち
1/a+1/b+1/c>1,=1,<1
に応じて楕円幾何学,ユークリッド幾何学,双曲幾何学の三角形が得られます.
1/a+1/b+1/c>1を満たす正の整数の組みたす(a,b,c)は高々有限個で,(n,2,2)は正2面体群,(3,3,2)は正4面体群,(4,3,2)が正8(6)面体群,(5,3,2)は正20(12)面体群に対応しています.一方,1/a+1/b+1/c<1の場合は(n≧7,3,2),(n≧5,4,2),(n≧4,3,3),(n≧3,4,3)など無限個あり,双曲幾何学における市松模様三角形タイル張りの可能性は無限にあることになります.
すなわち,楕円的平面では基本領域は有限個しかなく,有限個の基本領域をならべることによって全平面を埋めつくすことができます.一方,双曲的平面の場合には,無限に多くの種類の基本領域があり,全平面を隙間なく埋めるには無限個必要となります.ユークリッド平面はその中間で,基本領域は有限種類しかないが,全平面を埋めつくすには無限個必要であるというわけです.
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【2】モザイク模様とルート系
(問)1つの3角形を辺に関して次々折り返していって,3角形が互いに重なることなく,平面を埋めつくすことができるか?
(答)この問題も平面を鏡映三角形で埋めるというものですが,市松模様という条件がなくなっているので,1つの頂点に会する三角形は偶数に限る必要はありません.
α=2π/p ただし,pは3以上の自然数.
まったく,同様に残り2つの内角に対しても
β=2π/q,γ=2π/r
また,α+β+γ=πより
1/p+1/q+1/r=1/2
が成り立ちます.
ここで,3≦p≦q≦rと仮定すると
1/2=1/p+1/q+1/r≦3/p
より,3≦p≦6
さらに,pが奇数のとき,頂点Aからでる2辺の長さは等しくならなければなりません.そうしないと,折り返しでうまく重ならないからです.したがって,
(i)p=3のとき,q=rなので,
q(q−12)=0
これより,(p,q,r)=(3,12,12)
(ii)p=4のとき,(q−4)(r−4)=16
これより,(p,q,r)=(4,5,20),(4,6,12),(4,8,8)ですが,(p,q,r)=(4,5,20)は必要条件を満たすものの,十分条件を満たさない,すなわち,1点のまわりだけは完全に埋められても平面のタイル張りになりません.凸な多角形では七角以上になるとどんな型のものも平面充填はうまくいかないのです.
(iii)p=5のとき,q=rより,
q(3q−20)=0
これを満たす3以上の整数はありません.
(iv)p=6のとき,(q−3)(r−3)=9
これより,(p,q,r)=(6,6,6)
結局,求めるタイル張りは
(6,6,6) → 正三角形
(4,8,8) → 直角二等辺三角形
(4,6,12) → 30°,60°,90°の三角形
(3,12,12)→ 30°,30°,120°の三角形
の4通りあることになり,実際に十分条件を満たします.
30°,30°,120°の角をもつ三角形は,正三角形格子(3,6)の各面を3個の合同な三角形に分解することによってできるモザイク模様です.「麻の葉」文様と呼ばれるくり返し文様なのですが,日本では古くから装飾工芸品や寄木細工のデザインなどとして用いられていますから,ご存じの方も多いと思います.
30°,60°,90°のモザイクは,30°,30°,120°の三角形からなるモザイクをさらに2個の直角三角形に分解してできる模様,直角二等辺三角形モザイクは正方格子(4,4)を4分割したもの,正三角形は正三角形格子(3,6)そのものです.
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