■レムニスケートと2重周期関数(その2)

 三角関数は周期2πをもつ一変数一周期の実関数です(sin(x+2π)=sinx).他の周期はその整数倍2nπですから二重周期ではありません.指数関数exp(x)も複素数の世界にはいると,オイラーの等式exp(2πi)=1よりexp(z+2πi)=exp(z)ですから周期2πiをもちますが,これも単周期関数です.複素数変数の単周期関数は,対応点を同一視することによって無限の長さをもつ円筒と見ることができます.

 

 いま,レムニスケート積分

  f(x)=1/(1-x^4)^(1/2)

  u=F(z)=∫(0-z)f(x)dx

において,(強引に)xが純虚数とします.するとs=ix,ds=idxより

  F(iz)=iF(z)

が得られます.この逆関数をとれば,

  sl(iu)=isl(u)

 

 これより,レムニスケートサインでuにiuを代入すると,レムニスケートサインは第2の周期2iωをもち,もっとも単純で非自明な2重周期関数が得られたことになります.すなわち,楕円積分の逆関数である楕円関数を複素領域に拡張すると,必然的に二重周期をもつことになるのです.なお,楕円積分を経由せずに,楕円関数を直接複素領域で二重周期をもつ有理型関数として定義することも可能です.つまり,二重周期関数の別名が楕円関数というわけです.

 

 アーベルはレムニスケートサインが複素変数の有理型関数に拡張できることを明らかにし,さらに,一変数二重周期の複素関数(一般2重周期関数),すなわち,

  f(z+p+q)=f(z+p)=f(z+q)=f(z)

を満たすような関数を発見しています.レムニスケートの2重周期性は

  1-x^4=(1-x)(1+x)(1-ix)(1+ix)

より周期平行四辺形が正方形になる特別の場合に相当します.

 

 このように,複素関数のなかには2重周期をもつものがありますが,これはドーナツ面(円環面)上の関数と見ることができます.なぜなら,周期平行四辺形の対辺の対応点を同一視することにより,ドーナツ面が作られ,ドーナツ面は環状に並べられた円と考えることができるからです.

 

 実は,周期関数とは有理変換によって不変な関数,

  f((az+b)/(cz+d))=f(z)

の特別な場合にすぎません.有理変換(メビウス変換):

  z’=(az+b)/(cz+d)

は円を円に変換するものですが,有理変換によって不変な関数は存在し,保型関数と呼ばれています.三角関数は楕円関数の特殊な場合であり,さらに,楕円関数は保型関数の特殊な場合に相当しています.

 

 不幸にして夭折したアーベルの夢は,楕円関数を超えるようなさらに興味深い超越関数の発見にありました.後世の人々は多変数の多重周期有理型関数(アーベル関数)や保型関数を発見してその夢を実現させています.

 

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