■サイクロイドと積分・変分法(その40)
【3】まとめ
サイクロイドの応用としては,ジェットコースターや時計ばかりではありません.昔の歯車の歯は滑りどめの凹凸に過ぎなかったのですが,最近の機械では大きな力を高速で伝達することが要求されます.歯車の歯形として円の伸開線(インボリュート歯形)が使われていますが,かつてはサイクロイド歯形が用いられていたという話を伺ったことがあります.
サイクロイド関連の曲線の応用としては,たとえば,円の内側にある固定点が描く軌跡をトロコイドというのですが,「n角の穴をあけるドリル」にはトロコイドが応用されています.また,回転円(半径r)が固定円(半径R)に接して滑ることなく転がっていくとき,回転円の周上の点の軌跡を考えます.回転円が固定円に外接するとき,その軌跡をエピサイクロイド,内接するとき,ハイポサイクロイドと呼びます.古代ギリシャの人々は固定円上の回転円を使って惑星の軌道を説明しました.
サイクロイドはそもそもガリレオによって発見され,ホイヘンスによって振子時計の設計に使われ,そしてパスカルの積分法の研究にも貢献しています.サイクロイド弧が囲む面積は3πr^2(回転円の面積の3倍に等しい),弧長は8r(回転円に外接する正方形の周に等しい)になります.
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【補】楕円積分
単振り子の振動周期や楕円の弧長を求める問題を考える場合,k[0,1]をパラメータとする不完全積分
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)
F(z)=∫(0-z)f(x)dx
が絡んできます.
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
K(k)=∫(0-1)f(x)dx
を第1種完全楕円積分,
f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)
E(k)=∫(0-1)f(x)dx
を第2種完全楕円積分と呼びます.
これらの不定積分は初等関数では表せませんが,たとえば,第1種完全楕円積分は
K(k)=π/2{1+(1/2k)^2+(3/8k^2)^2+(5/16k^3)^2+・・・}
とベキ級数展開できます.
完全楕円積分を用いると,楕円:x^2/a^2+y^2/b^2=1の全周は
4aE(k)=2aπ(1-k^2/4-3k^4/64-5k^6/256-・・・) k=(1-b^2/a^2)^(1/2)
レムニスケート:(x^2+y^2)^2=2a^2(x^2-y^2)の全周は√(8)aK(1/√(2))
糸の長さlの単振り子の周期はT=4√(l/g)K(k)
したがって,振幅が小さいときT〜2π√(l/g)と表すことができます.
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