■サイクロイドと積分・変分法(その39)
【2】等時曲線
ガリレオ・ガリレイは16世紀の終わりにピサの斜塔で有名な落体の実験を試みましたが,さらに大聖堂のシャンデリアの動きから振子の等時性を発見しています.
糸の長さlに質量mの錘のついた振り子の運動方程式は,
mldθ^2/d^2t=−mgsinθ
で表されますが,
sinθ=θ−1/3!θ^3+1/5!θ^5−・・・
より,小さな振幅に限るとsinθ〜θとしてよいので
mldθ^2/d^2t=−mgθ
となります.この方程式は線形なので解くことができ,周期
T=2π√l/g〜2√l
が得られます.したがって,周期はl=25cmで約1秒,l=1mで約2秒となり,振幅には拠りません.
これが有名な「振り子の等時性」ですが,この現象は振幅が小さい場合に限って成立します.しかし,振幅が大きいと,復元力はsinθに比例し,積分は楕円積分となります.
その場合の周期として
(dt/dθ)^2=2g/l・(cosθ-cosθ0)=2g/l・(sin^2(θ0/2)-sin^2(θ/2))
dt/dθ=1/2・√(l/g)/√(sin^2(θ0/2)-sin^2(θ/2))
T=2√(l/g)∫(0,θ0)dθ/√(sin^2(θ0/2)-sin^2(θ/2))
より
T=4√(l/g)K(k)
が得られますが,この式は振幅が小さいとき
T〜2π√(l/g)
と近似されます.
現実には振幅はそれ程小さくなく,無視できない差が生じます.楕円積分が登場するため,線形性はくずれ非線形になるからです.
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サイクロイドに束縛された質点の運動方程式を考えると
d^2s/dt^2=-gsinθ=-g/4a・s
となってこれは単振動の運動方程式にほかなりません.
したがって,サイクロイドを用いると,周期が振幅に依存しない正確に等時性をもった振り子を作ることができます.その場合,サイクロイド振り子の周期は
T=4π√a/g〜4√a
になります.
このようにして,いまから300年以上も前にホイヘンスはサイクロイドが等時曲線(所要時間が質点の位置に関係なく一定である曲線)であることを発見しました.逆に,等時性が成り立つ曲線はサイクロイドに限ることが知られています.
単振り子が厳密には等時性をもたないことは前述しましたが,等時性をもつ振子を作るには振幅角が大きいとき振子の長さを短くして,錘の軌跡がサイクロイドを描くようにすればよいのですが,ホイヘンスは等時性からのずれを補正するためにサイクロイドの縮閉線を利用しました.サイクロイドの縮閉線にはもとのサイクロイドと合同なサイクロイドになるという性質があるからです.
[補]曲線Lのまわりに巻かれた糸があり,この糸をぴんと張ったままほどくと糸の自由端によって曲線Mが描かれるとします.MをLの伸開線(インボリュート),LをMの縮閉線(エボリュート)と呼びます.
円の伸開線,すなわち円に巻きつけた糸の一端の軌跡は
x=a(cosθ+θsinθ),y=a(sinθ−θcosθ)
と表され,歯車の歯形として工学に応用されています.
サイクロイド:x=r(θ−sinθ),y=r(1−cosθ)の縮閉線は
x=a(θ+sinθ),y=−a(1−cosθ)
です.ここで,θ=π+tとおけば
x=a(t−sint)+aπ,y=a(1−cost)−2a
ですから,もとのサイクロイドと合同なサイクロイドになることが示されます.
サイクロイドの伸開線はそれと合同なサイクロイドですが,対数らせんの伸開線もそれと合同な対数らせんになります.
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