■サイクロイドと積分・変分法(その21)

 ガリレオが最速降下線と勘違いしていたのは円弧だったようです.また,ガリレオが懸垂線と間違って信じていたのは放物線だったようです.

  [参]ナーイン「最大値と最小値の数学」シュプリンガー・ジャパン

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【1】懸垂線

 伸び縮みしないひもの両端を固定しぶら下げてできる曲線を懸垂線(カテナリー)といいます.ひもの両端をもちあげたときに,そのひもがどのような形状をとるかは,古くからある変分問題のひとつで,長さと端点が固定されている曲線:y=f(x)の位置エネルギーを最小とする関数形を求めよということになります.

 微小部分における曲線の長さは√{(dx)^2+(dy)^2}=√{1+(y')^2}dx

また,そこでの位置エネルギーは高さyに比例しますから,位置エネルギーは,

  U[y]=∫y(1+(y')^2)^1/2dx

で定義されます.

 また,ひもの長さは

  L[y]=∫(1+(y')^2)^1/2dx

であり,この問題は条件付き極値問題ですから,ラグランジュの未定乗数法を用いて解くことができます.

 ここでは問題を定式化するだけで,実際の計算は略しますが,その解は端点の位置に関わらず,双曲余弦関数

  y=a/2{exp(x/a)+exp(-x/a)}

になります.懸垂線はちょっとみると放物線ではないかと思われがちですが,放物線よりもずっときつく上昇する曲線です.

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 一方,ゴムひものように伸び縮みする素材で作られたひもの両端をもってぶら下げたときに,ひもがとる形状はカテナリー(懸垂線)とはなりません.この場合,ひもの長さは固定されておらず,位置エネルギーだけでなく,張力エネルギーとの和を最小とするような形状をとるからです.

 張力エネルギーは微小部分のひもの伸びの2乗になりますから,

  T[y]=∫{(1+(y')^2)^1/2-a}^2dx

ここで,(1+(y')^2)^1/2がaに比べてきわめて大きい状態に理想化すると,

  T[y]=∫(1+(y')^2)dx

 そして,c1*U[y]+c2*T[y]の変分問題を考えると,その解は放物線となります.カテナリーは代数曲線ではありませんでしたが,ここでまた代数曲線が登場しました.

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【2】懸垂曲面

 懸垂線の問題を解いたのはベルヌーイであったのですが,変分法によって,懸垂線は与えられた2点を両端とする一定の長さの曲線をx軸を軸として回転させたときにできる曲面の表面積を最小にする曲線であることも簡単に導かれます.

(証明)y=f(x)>0のグラフをx軸を中心に回転させてできる曲面の面積を最小にしたい.曲面の面積は

  S[y]=2π∫y(1+(y')^2)^1/2dx

 これは懸垂線で考えた位置エネルギーの2π倍ですから,解は懸垂線を回転させたものであり,懸垂曲面(カテノイド)と呼ばれています.なお,回転極小曲面は懸垂面のみであることが示されています.

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[補]針金でできた半径1の2つの輪があるとき,その間隔が1.3254よりも小さければカテノイドができ,大きければできない.

[補]フェルマー・シュタイナー点が物理的作用と結びつくと,興味のある幾何学的効果が出現してきます.たとえば,2次元的にランダムに配列した石鹸の泡はいろいろなサイズの泡細胞からなっていますが,表面張力の要請から境界長を極小化しようとしますから,接合角度は120度となります(プラトー問題・最小シュタイナー木問題).このことから,石鹸の泡は各頂点の次数がすべて3である平面図形と考えることができます.また,互いに120°の角度で交わる石鹸膜の交線は

  arccos(−1/3)=109.471°

で接触します.正四面体の頂点から中心に向かう3枚の膜は互いに120°の角度をなし,中心に集まる4本の線は109.471°(マラルディの角)をなすのです.

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