■五芒星と掛谷の問題(その13)

 1917年,日本の数学者掛谷宗一は「長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か」という問題(掛谷の問題)を提出しました.この問題は多くの予想を生み出しました.

 

(例1)線分ABをAの回り180°回転した半円:面積π/2

(例2)ABを中点Oの回りに360°回転した円:面積π/4

(例3)ルーローの三角形(正三角形の各頂点を中心として他の2頂点を通る円弧を描いてできる図形):面積(π−√3)/2

(例4)高さが1の正三角形:面積√3/3

 

 ところが,これらより面積が小さい図形が考えられました.デルトイドでは長さ4rの棒をデルトイドに接しながら1回転することができるのですが,したがって,

(例5)直径3/2の円を固定しておいて,その円に直径1/2の円を内接させて転がしたときにできるデルトイド:面積π/8

 

 掛谷自身,π/8が最小値であると予想しましたし,多くの数学者も答はデルトイドではないかと予想していました.ところが驚いたことに,1927年,ベシコビッチによって「前後を方向転換できるいくらでも面積の小さい図形を作ることができる」ことが証明されたのです.

 

 ハンドルを細かく切り返すジグザグ運動を続けることで,1kmの長さの針でも,切手1枚分の面積の図形の中で頭と尻尾を逆に方向転換できるというのですから,ベシコビッチの証明は直観に反しています.常識ではとても受け入れられものではありませんが,多くの数学者にとっても予想が裏切られる結果になりましたから,その驚きはいかに大きかったであろうかと推察されます.

 

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【1】直線族の包絡線

 

 エピサイクロイド(カージオイド,ネフロイドなど),ハイポサイクロド(デルトイド,アステロイドなど)には,直線族の包絡線であるという共通の性質が知られています.

   たとえば,ネフロイドは平行光線が円の内側で反射されるときの包絡線,カージオイドは光が周上の1点から発して円周で反射されたときにできる包絡線です.また,デルトイドは3つの尖点をもつ図形ですが,「デルトイドの接線が曲線に挟まれる部分の長さは一定である.」という性質があります.これは,デルトイドでは長さ4rの棒をデルトイドに接しながら1回転することができるというのと同一であることがわかっています.

 アステロイドは,棒の両端をx軸,y軸にのせながら動かしたときの包絡線となっています.周転円によってサイクロイドを描くことは大変ですが,この方法であれば簡単にできますから,なかには実際に描いてみた方もおられることでしょう.「アステロイド:x^(2/3)+y^(2/3)=a^(2/3)において曲線状の任意の点における接線がx軸,y軸と交わる点をそれぞれA,BとすればAB=aであることを証明せよ.」は高校の教科書にも取り上げられているのでご存知の方も多いはずです.すなわち,一定の長さaの線分の両端が直交軸上を動くとき,その線分の包絡線の方程式がアステロイドなのです.

 

 一方,その逆問題「曲線上の任意の点における接線のx軸,y軸とで切り取られる部分の長さが一定であるような曲線を求めよ.(クレローの微分方程式)」を取り上げたものは少ないようですが,この微分方程式も簡単に解けてアステロイドという解曲線が得られます.

 

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