■クラインの見た正20面体(正20面体方程式)
幾何学に群を積極的に応用することを最初に主張したのが,クラインのエルランゲン・プログラム「幾何学とは変換群で不変な図形の性質を研究する分野」である.クラインは3次元空間内の回転対称図形は巡回群か,二面体群か,3種類の正多面体群(正四面体群,正八面体群,正二十面体群)のどれかに分類できることを証明した.
そして,方程式の根の置換群が正多面体群となるものを研究していたクラインは正20面体の回転群A5が5次方程式の根の置換群と同型であることを証明し,両者の意外な結びつきを「正20面体と5次方程式」の中で正多面体群と方程式論が交差する美しい小宇宙として論じている.
ところで,根号√,3√,4√,・・・という束縛を外すとどうなるのだろう.ベキ根によって解くとは方程式をz^n=aに帰着させるということであるが,たとえば,媒介変数tを導入してz=exp(t/n),a=exp(t)と書けば,指数関数と対数関数を用いて解を書き下すことができる.
そこで,5次方程式のよい媒介変数を見つけてその特殊関数によってその方程式を解くことが考えられる.5次方程式を正20面体方程式に帰着し,媒介変数を介して楕円モジュラー関数により解を求めるという方針に従って,楕円モジュラー関数
J(τ)=(1-240Σn^3q^n/(1-q^n)^3/12^3qΠ(1-q^n)^24,q=2πiτ
J5(τ)=q^(1/5)Σ(-1)^nq^(5n^2-3n)/2/Σ(-1)^nq^(5n^2-n)/2
を用いると,正二十面体方程式Φ(z)=aの解はJ(z)=a,z=J5(τ)と表される.
すなわち,5次方程式を正20面体方程式に帰着させれば,正20面体の対称性から保型関数を用いることができる.19世紀の後半,デデキントとクラインは独立に重さ0の保型関数
j(az+b/cz+d)=j(z)
ad−bc=1
を構成した.j(z)は最も簡単でよく知られているSL(2,Z)不変な保型関数で,q=exp(2πiz)とおくと,
j(z)=E4(z)^3/Δ(z)
=1/q+744+196884q+21493760q^2+864299970q^3+・・・
と展開される.J,J5は楕円モジュラー関数と呼ばれるものであり,
J(τ)=1/12^3(1/q+744+196884q+・・・)
J5はその5等分値である.
このようにして,クラインは5次方程式の回転群と楕円関数が絡み合った小宇宙で,5次方程式が特殊な楕円関数を用いて解ける理由を考察し,決定的な答えを導き出したのである.
[参]橋本義武「正20面体方程式」数学セミナー2007.1,日本評論社
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【3】補遺
なお,現在では6次以上の高次元でも,モジュラー関数のような他の道具を使って解けることがわかっています.さらに,条件を厳しくした下で7次方程式を解くことはできるだろうかという問題も設定することができるのですが,それに対してはまだ解決の糸口すら見つかっていません.おぼろげながらも見えないので,現在,それを研究している数学者はほとんどいません.
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