■モジュラー形式とアイゼンシュタイン級数(その25)

【7】3次曲線のj-不変量

 

 非特異3次曲線の標準型:

  y^2=x(x−1)(x−λ)

のj-不変量は

  j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2

によって定義されます.λ=−1のときj=1728,λ=−ζ6(1の6乗根)のときj=0となります.

 

 jー不変量はモジュラー不変量とも呼ばれ,

  j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)

 =j(1−1/λ)=j(1/(1−λ))=j(λ/(1−λ))

ですから,4個の点{0,1,λ,∞}の入れ替えに依存しないinvariantで,最も単純で重要な保型関数と考えられます.

 

 複比を

  λ={(λ0−λ2)/(λ1−λ2)}/{(λ0−λ3)/(λ1−λ3)}

によって定義すると,λiの順序を変えるとλの値は変わります.すなわち,{λ0,λ1,λ2,λ3}からつくられる複比の値は,

  λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ

の6つのどれかに移ります.

 

 この順序による曖昧さを消すために,λの6つの分数変換の不変式をとって,

  j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2

とおくのです.複比は一次分数変換で不変であり,jもまた射影変換で不変です.

 

 なお,

  j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)

が成り立てば,あとの等式はこの2つから導かれますから,有理関数

  (λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2

が本質的であって,係数2^8には本質的な意味はありません.実際,

  (x^2−x+1)^3/x^2(x−1)^2=(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2

と,変数xの方程式を考えると,

λ^2(λ−1)^2(x^2−x+1)^3−(λ^2−λ+1)^3x^2(x−1)^2=0

はλ≠0,1より,6次方程式となり,

  λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ

のどれを代入しても成り立ちます.重複が生ずるのは

  λ^2−λ+1=0,λ=1/2,λ=−1,λ=2

の場合に限ります.

 

 y=ax^3+bx^2+cx+dという方程式で定まる曲線はおなじみの3次曲線ですが,yのところがy^2に変わるとワイエルシュトラスの楕円曲線:

  y^2=ax^3+bx^2+cx+d

になります.ただし,a,b,c,dは有理数で,右辺の3次式は重根をもたないものと仮定します.楕円曲線をワイエルシュトラス形式に制限しても一般性を失いません.実際,どのような楕円曲線もワイエルシュトラス形式の楕円曲線に双有理的に同値だからです.

 

 また,x^2の項の係数はx’=x+b/3aと変数変換(カルダノ変換)することによって簡単に消すことができますから,

  y^2=x^3+ax+b   (4a^3+27b^2≠0)

を楕円曲線と定義しても構いません.4a^3+27b^2≠0は重根をもたないための条件です(判別式:Δ=−(4a^3+27b^2)).

 

 ワイエルシュトラスの標準形:

  y^2=x^3+ax+b   (2^2a^3+3^3b^2≠0)

のj-不変量を計算すると,

  j=2^8・3^3b^2/(2^2a^3+3^3b^2)

となります.jー不変量は,2つの楕円曲線が同じjー不変量をもつかどうかなど,3次曲線を分類する(見分ける)ための指標になっているのです.

 

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