■レムニスケートの等分点とテータ関数(その30)

 虚数乗法について,補足しておきたい.

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【1】ファニャーノの変数変換=ランデン変換

  f(t)=1/(1-t^2)^(1/2)

  2u=2∫(0,x)f(t)dt

において,t=2v/(1+v^2)と置換すると

  (1-t^2)^(1/2)=(1-v^2)/(1+v^2)

  dt=2(1-v^2)dv/(1+v^2)^2

より

  dt/(1-t^2)^(1/2)=2・dv/(1+v^2)

 レムニスケート

  f(t)=1/(1-t^4)^(1/2)

  2u=2∫(0,x)f(t)dt

においても類似の置換に導かれて,t^2=2v^2/(1+v^4)と置換すると

  (1-t^4)^(1/2)=(1-v^4)/(1+v^4)

  2tdt=4v(1-v^4)dv/(1+v^4)^2

より

  dt/(1-t^4)^(1/2)=√2・dv/(1+v^4)^(1/2)

 さらに,v^2=2w^2/(1−w^4)と置換すると

  (1+v^4)^(1/2)=(1+w^4)/(1-w^4)

  2vdv=4w(1+w^4)dv/(1-w^4)^2

より

  dv/(1+v^4)^(1/2)=√2・dw/(1-w^4)^(1/2)

 これらの置換を行った結果,ファニャーノは

  dt/(1-t^4)^(1/2)=2・dw/(1-w^4)^(1/2)

  t^2=4w^2(1-w^4)/(1+w^4)^2

であることを見いだします.これに対応する積分間での関係がファニャーノの倍角公式

  2∫(0,x)f(t)dt=∫(0,2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4))f(t)dt

というわけです.これらの公式は2つの曲線:t^2=1−z^4,w^2=1+u^4の間の次数2のランデン変換です.

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【2】ファニャーノの虚数乗法

 ファニャーノはレムニスケート弧長の2等分を与える

  dt/(1-t^4)^(1/2)=2・dw/(1-w^4)^(1/2)

  t^2=4w^2(1-w^4)/(1+w^4)^2

を見いだしましたが,同時に複素数による楕円積分の例

  dt/(1-t^4)^(1/2)=(1+i)・dw/(1-w^4)^(1/2)

  t^2=2iw^2/(1-w^4)

  sl((1+i)u)=(1+i)sl(u)/(1-sl^4(u))^1/2

も得ています.ηを−1の8乗根η=(1+i)/√2として,uをηuで置き換えると曲線t^2=1−z^4上の1±iの虚数乗法の公式が得られます.

 ファニャーノの仕事のこの部分はオイラーの注目を引くには至りませんでしたが,アーベルの手になってからかなりの重要度を獲得することになりました.

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【3】アーベルの虚数乗法

 加法・減法公式

  dy/p(y)^(1/2)=±dx/p(x)^(1/2)

で,加法公式を繰り返し適用すれば乗法公式

  dy/p(y)^(1/2)=a・dx/p(x)^(1/2)

を導くことができます.

 微分方程式

  dy/{(1-c^2y^2)(1-e^2y^2)}^(1/2)=a・dx/{(1-c^2x^2)(1-e^2x^2)}^(1/2)

を満たすようなxの有理または無理代数関数yをすべて求める問題は,特別な場合として変数の倍加(等分)の問題も含んでいます.アーベルはもしこの微分方程式が代数積分をもち,aが複素数ならばaは必ずm±i√n(m,nは有理数)の形にかけることを証明しました.これは楕円関数論に虚数乗法が現れた最初の事例と考えられています.

 なお,純虚数変数の関数を定義するために,積分

  ∫(0,z)1/(1-t^4)^(1/2)dt

の上端を純虚数iyにとります.このとき,

  ∫(0,iy)1/(1-t^4)^(1/2)dt=i∫(0,y)1/(1-t^4)^(1/2)dt

が成り立ちます.ここで,y=sl(v),iy=sl(iv)=isl(v)です.複素変数u+viの関数

  sl(u+vi)={x(1-y^4)^1/2+iv(1-u^4)^1/2}/(1-u^2v^2)

  x=sl(u),y=sl(v)

を得るには加法公式を適用します.

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