■テータ関数と格子(その4)
【3】ヤコビのテータ関数からの補足
ヤコビの楕円関数sn,cn,dnを三角関数に対応する2重周期関数とするならば,ヤコビのテータ関数は指数関数に対応する擬2重周期関数です.
θ3(z)の定義は,三角関数を用いると
θ3(z)=Σq^(n^2)y^(2n)
=1+2Σq^(n^2)cos(2nπz)
とも表されます.ヤコビが定義したテータ関数はθ3を含めて4つあります.
θ4(z)=Σ(-1)^nq^(n^2)y^(2n)
=1+2Σ(-1)^nq^(n^2)cos(2nπz)
θ2(z)=Σq^((n+1/2)^2)y^(2n+1)
=2Σq^((n+1/2)^2)cos(2n+1)πz
θ1(z)=1/iΣ(-1)^nq^((n+1/2)^2)y^(2n+1)
=2Σ(-1)^nq^((n+1/2)^2)sin(2n+1)πz
qの指数は整数Zや半整数Z+1/2の2乗ですが,このことから整数あるいは半整数のつくる1次元格子上の2次形式と理解することができます.そして,整数・半整数,交代・非交代の組合せから4つのテータ関数が定義されるというわけです.
簡単のため,z=0(y=1)とおいたものをθk(τ)とかくと,
θ3(τ)=Π(1−q^2m)(1+q^(2m-1))^2
θ4(τ)=Π(1−q^2m)(1−q^(2m-1))^2
θ2(τ)=2q^(1/4)Π(1−q^2m)(1+q^2m)^2
θ1(τ)=0
θ1'(τ)=dθ1/dz|(z=0)=2πq^(1/4)Π(1−q^2m)^3
となります.
また,これらより
πθ2(τ)θ3(τ)θ4(τ)=θ1'(τ)
θ3^4(τ)=θ2^4(τ)+θ4^4(τ)
などの関係式を導き出すことができます.
ここからはデデキントのイータ関数との関係で
q=exp(2πiτ)
としますが,周期性
θ3(τ+1)=θ4(τ)
θ4(τ+1)=θ3(τ)
θ2(τ+1)=θ2(τ)exp(πi4)
双対性については,ポアソンの和公式を用いて求めます.
θ3(−1/τ)=θ3(τ)(−iτ)^(1/2)
θ4(−1/τ)=θ2(τ)(−iτ)^(1/2)
θ2(−1/τ)=θ4(τ)(−iτ)^(1/2)
また,テータ関数はヤコビの3重積公式
Σq^(m^2)y^m=Π(1−q^2n)(1+yq^(2n-1))(1−yq^(2n-1))
にも結びついています.
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【4】ルート格子からの補足
ルート格子Dnとは,ベクトル(x1,x2,・・・,xn)において,
1)xiがすべて整数をとり
2)それらの総和が偶数値をとる
格子です.n次元ダイアモンド格子Dn+はさらに
3)半整数値をとるもの
という条件を加えます.
Dn+はnが偶数のときに限り格子になり,とくにnが8の倍数のとき偶ユニモジュラ格子(ベクトルの長さの2乗がすべて偶数であり,単位体積に含まれる点が1個に限られる格子)です.リー環との関係からD8+=E8と呼びます.偶ユニモジュラ格子はnが8の倍数のときにしか存在しません.
8次元の偶ユニモジュラ格子はE8だけしかないのに対して,16次元の偶ユニモジュラ格子は2つあるというわけです(ヴィット,1941年).なお,24次元偶ユニモジュラ格子は24種類あり,その中には有名なリーチ格子Λ24も含まれます(ニーマイヤー).
16次元格子D16と8次元格子E8(=D8+)のテータ関数を決定してみましょう.前節よりヤコビのテータ定数を
θ3=Σq^(n^2)
θ4=Σ(-1)^nq^(n^2)
θ2=Σq^((n+1/2)^2) q=exp(2πiz)
とします.θ3は立方体格子(整数値をとる格子),θ4は立方体格子に含まれるベクトルでノルムが奇数値をとるものの符号を変えてできる格子,θ2は半整数値をとる格子に対応していると考えることができます.
このことから,Dnのテータ関数は
1/2(θ3^n+θ4^n)
Dn+のテータ関数は
1/2(θ2^n+θ3^n+θ4^n)
であることがわかります.
なお,格子Lの双対格子L+のテータ関数の間には,ヤコビの変換公式
θ+=(detL)^(1/2)(i/z)^(n/2)θ(-1/z)
が成り立ちます.
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