■チェビシェフ多項式と正多面体(その19)

 与えられた関数f(x)に対して与えられた区間[−h,h]上で,n−1次多項式:g(x)=p0+p1x+p2x^2+・・・+pn-1x^n-1とのズレ

  h(x)=|f(x)−g(x)|

の最大値を最小にするパラメータの値を求める最良一様近似(ミニマックス近似)の問題を考える.

 有理分数式g(x)=p(x)/q(x)を用いて最良近似する問題も含め,このような一様計量はチェビシェフ計量と呼ばれていて,最小2乗法の計量とは異なる.

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【1】最良近似

 特殊な場合として,最高次数の係数が1のn次多項式

  f(x)=x^n+p1x^n-1+・・・+pn

で,ゼロからの偏差が最小の多項式を求める問題を考えよう.もし解が存在するならば,L=max|f(x)|としてf(x)の値の絶対値がLに等しく,n回符号が交代する点が存在することが必要である.

 そのためには,g(x)=(1/n)f’(x)(すなわち最高次数の係数が1のn−1次多項式)として恒等式

  |f(x)|^2−L^2=(x^2−h^2)|g(x)|^2

が成り立たなければならない.

  f(x)−(x^2−h^2)^1/2g(x)=L^2/(x^2−h^2)^1/2f(x){f(x)+(x^2−h^2)^1/2g(x)}

と書き換えて,1/(x^2−h^2)^1/2の連分数展開すると

  f(x)={(x+(x^2−h^2)^1/2)^n+(x−(x^2−h^2)^1/2)^n}/2^n

 ここで,x=hcosθとおくと

  f(x)=h^n/2^n-1・cosnθ=h^nTn(x/h)

  Tn(x)=1/2^n-1・cos(narccosx)

という形をとることがわかる.

[注]多少修正した記号を使う場合もあるので,注意!

  L=h^n/2^n-1

零点は−h=x1=hcos(nπ/n),x2=hcos((n−1)π/n),・・・,xn+1=hで与えられる.

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【2】チェビシェフ多項式

 ド・モアブルの定理:

  (cosθ+isinθ)^n=cosnθ+isinnθ

の左辺を2項展開して,両辺の実部,虚部を比較すると

  cosnθ=(cosθ)^n−nC2(cosθ)^n-2(sinθ)^2+・・・=(cosθのn次多項式)=Tn(cosθ)

  sinnθ=nC1(cosθ)^n-1sinθ−nC3(cosθ)^n-3(sinθ)^3+・・・=sinθ×(cosθのn−1次多項式)=sinθ×Un(cosθ)

を得る.

 また,

  cosnθ=cosθcos(n−1)−sinθsin(n−1)θ

  sinnθ=sinθcos(n−1)+cosθsin(n−1)θ

より,漸化式

  Tn(cosθ)=cosθTn-1(cosθ)−(sinθ)^2Un-1(cosθ)

  Un(cosθ)=Tn-1(cosθ)+cosθUn-1(cosθ)

  Tn(cosθ)=2cosθTn-1(cosθ)−Tn-2(cosθ)

  Un(cosθ)=2cosθUn-1(cosθ)−Un-2(cosθ)

ここで,cosθ=xの多項式で表すと,チェビシュフ多項式は

  Tn(x)=2xTn-1(x)−Tn-2(x)

  Un(x)=2xUn-1(x)−Un-2(x)

が成り立つ.

 第1種チェビシュフ多項式

  T0(x)=1,T1(x)=x,T2(x)=2x^2−1,T3(x)=4x^3−3x,T4(x)=8x^4−8x^2+1,・・・

また,Tn(x)=0の根はcos(kπ/2n),k=1,3,5,・・・,2n−1と表される.

 sinの場合には番号をひとつずらせて,sin(n+1)θ/sinθを考えると,第2種チェビシュフ多項式

  U0(x)=1,U1(x)=2x,U2(x)=4x^2−1,U3(x)=8x^3−4x,U4(x)=16x^4−12x^2+1,・・・

また,Un(x)=0の根はcos(kπ/(n+1)),k=1,2,3,・・・,nと表される.

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【3】チェビシェフ多項式の性質

[1]最良近似

  f(x)=x^n+p1x^n-1+・・・+pn

  L=max|f(x)|

とおく.そのとき,区間[−1,1]上でLを最小にするのは

  f(x)=Tn(x)/2^n-1

ただひとつで,L=1/2^n-1が成立する.

[2]漸化式

  Tn(x)=2xTn-1(x)−Tn-2(x)

  Un(x)=2xUn-1(x)−Un-2(x)

[3]直交性

  ∫(-1,1)Tm(x)Tn(x)/(1−x^2)^1/2dx

 =0     (m≠n)

 =π     (m=n=0)

 =π/2   (m=n≠0)

[4]母関数

  T0(x)+2ΣTn(x)t^n=(−t^2+1)/(t^2−2xt+1)

[5]合成

  Tm(Tn(x))=Tmn(x)

[6]多項式近似定理(ワイエルシュトラス)

 閉区間[a,b]で連続な関数をf(x)とする.このとき

  |f(x)−g(x)|<ε

を満たす多項式g(x)が常に存在し,それはただひとつである.

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