■算術平均・幾何平均不等式(その17)

【4】ベクトルの積の大きさ=ベクトルの大きさの積

  (a^2+b^2)(c^2+d^2)=(ab+cd)^2+(ad−bc)^2

                =(ac−bd)^2+(ad+bc)^2

はラグランジュの恒等式(あるいはフィボナッチの等式)と呼ばれるもので,一般に

  (Σai^2)(Σbi^2)−(Σaibi)^2=1/2Σ(aibj−ajbi)^2 あるいは(i  (Σai^2)(Σbi^2)−(Σaibi)^2=Σ(aibj−ajbi)^2

と書ける.

 コーシー・シュワルツの不等式

  (Σai^2)(Σbi^2)≧(Σaibi)^2

はラグランジュの恒等式から自明であろう.この有名な不等式は角の余弦値は1以下であることの幾何学的表現と解釈することができる.

 ラグランジュの恒等式は,複素数を使って

  z1=a+bi,z2=c+di

  z1z2=(a+bi)(c+di)=(ac−bd)+(ad+bc)i

  |z1z2|=|z1||z2|

と表すことで証明できる.この公式は2つの整数がともに平方数の和の形をしているなら,その2数の積も平方数で表されることを示している.

 ついでに言うと,三角不等式

  |z1+z2|≦|z1|+|z2|

  (a^2+b^2)(c^2+d^2)−(ac+bd)^2≧(ad−bc)^2≧0

と表すことで証明できる.

 また,4平方和問題

  (a^2+b^2+c^2+d^2)(p^2+q^2+r^2+s^2)=x^2+y^2+z^2+w^2

  x=ap+bq+cr+ds,

  y=aq−bp+cs−dr,

  z=ar−bs−cp+dq,

  w=as+br−cq−dp

とおくと成り立ち,4つの平方数の和となっている数は積の演算で閉じていることを示している.

 しかし,3平方和問題

  (a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)=u^2+v^2+w^2

は2平方和,4平方和の場合のようなわけにはいかない.3平方和の積が必ずしも3平方和とならないからである.

  |a|・|b|=|c|

すなわち

  (a1^2+a2^2+・・・+an^2)(b1^2+b2^2+・・・+bn^2)=(c1^2+c2^2+・・・+cn^2)

の恒等式はn=1,2,4,8に対してだけ満たされるという驚くべき結果が19世紀末,フルヴィッツにより証明されている(1898年).

 したがって,ある条件のもとで,数の体系は八元数までですべてであることが知られていて,数の系列は実数(一元数)→複素数(二元数:ガウス)→四元数(ハミルトン)→八元数(ケイリー)というようになっているのである.

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