■多元数(その1)
|a|・|b|=|c|
すなわち,平方数の和が積の演算で閉じていることを示す
(a1^2+a2^2+・・・+an^2)(b1^2+b2^2+・・・+bn^2)=(c1^2+c2^2+・・・+cn^2)
の恒等式は,n=1,2,4,8に対してだけ満たされるという驚くべき結果が19世紀末,フルヴィッツにより証明されています(1898年).
したがって,ある条件のもとで,数の体系は八元数までですべてであることが知られていて,数の系列は
実数(一元数)→複素数(二元数:ガウス)→四元数(ハミルトン)→八元数(ケイリー)
というようになっているのです.
四元数は1843年ハミルトンにより,八元数は1845年ケイリーによって発明されました.四元数では乗法の交換法則は成り立ちません(ab≠ba).また,八元数では乗法の結合法則も破れています(a(bc)≠(ab)c).
複素数では加法,減法,乗法と0を除く除法が定義され,かつ,交換,結合,分配法則が適用できる数の集合=体と呼ばれる代数的構造をなしています.実数は体を構成しますが,有理数は最小の体を,複素数は最大の体を構成します.したがって,複素数以上に数の世界を広げようとすると,われわれがなじんでいる交換法則などのどれかが壊れてしまいます.超複素数の世界ではある規則が犠牲にされなければなりませんが,ある規則を犠牲にする段になると,最も苦痛の少ないのは乗法の交換法則,結合法則だったのです.
積の交換法則が成り立たない代数として「行列」があります.したがって,ハミルトンの4元数は行列の一部だと考えることができます.実際,
a+bi+cj+dk → [ a+bi c+di]
[−c+di a−bi]
のように,4元数と2×2行列を対応させると,4元数の演算はそのまま行列の演算に移行します.さらに,c=d=0の場合を考えると,複素数も行列とみなせるというわけです.
8元数では,積の交換法則も結合法則も成り立ちませんが,それでも分配法則は成り立っています.行列は結合法則を満たすので,8元数は行列の一部とはみなせないのです.なお,結合法則が成り立たない数の体系(非結合的な体)としては,8元数,リー代数,ジョルダン代数の3つが代表的です.
このシリーズでは,複素整数,四元整数,八元整数に対して素因数分解の一意性を調べてみます.
[参]コンウェイ,スミス「四元数と八元数」山田修司訳,培風館
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